第2話 逆境へのいざない


 おもえば、カードゲームとともに歩んできた人生だった。


 俺は窓によりかかり、紺色の空と沈んでゆく太陽にカードをかざす。

 青春のすべてをカードとゲームにかけてきた。

 

 このかっこいい剣士が描かれたカードの名前は『あかつきの冒険者』。能力値は低いが使い方次第ではものすごい効力を発揮する。

 そしてなにより、逆境ぎゃっきょうにつよい。

 どんな逆境でも跳ね除(の)ける強さを持っている、俺のエースカード。

 こんな風になりたいと子供のころは思っていたっけ。


 後悔はない。カードもゲームも好きだ。

 でもその2つにのめりこんだ結果、恋愛だとか色恋沙汰には縁がなかったのは、ちょっと残念かな。


 今日は久々に私用で外出する。

 ゲームショップに新作を買いにいくついでに、となりのカードショップにも寄っていこう。


 そう思いゲームソフトを買いにきたはずの俺だったが、自然とカードショップに先に来てしまった。

 これもカーダーの性か。


 しかし扉を開けて入ると、なにかおかしい。

 いつもと様子が違う。


 店内に人が誰もいない。客どころか、店員さえ見当たらない。

 完全に無人の状態だ。物音さえない。


 夕方の五時。電気も点いている。

 店が閉まっているわけではないと思うが、違和感を感じる。


 ショーウィンドウや壁にかけられた無数のカードたちも、いつもの光景なのに不気味に感じられる。


 ふと、部屋の奥に黒い空間が見えた。

 あんなの前きたときはなかったぞ。


 中は暗くてよく見えないが、肌の内側の血管が張ったような気味の悪い内装の奥に、カードが展示してあるらしかった。

 

 すみません、と一応声がけをしてから入るも、返事はない。

 そしてすぐに更なる違和感に気づく。


 奥の部屋の壁には1枚のカードが張り付いていた。暗いのでよく見ようと手を伸ばすと、壁から剥がれ落ちた。


 床に落ちたそのカードを手にとってみる。

 このカード、普通じゃない。


 カードの上部にあるカード名と、中央の絵柄部分がすべて真っ黒だった。


 しかも上から塗りつぶしたのではなく明らかに最初からそういうデザインになっている。


 気味が悪い。見ているだけでこのカードの闇に吸い込まれそうだ。


 その時だった。

 目の前の壁に五芒星ごぼうせいの紋章が青く滲み出でた。

 

 なにが起きているんだ。混乱のあまり、声もほとんど出ない。


 

 壁に穴があき、無数のカードたちが吹雪のように俺を包み込む。

 おそってくる突風とカードの嵐に、俺は手で顔をかばい立ち尽くすことしかできない。


 次にはその風とカードたちが逆向きになり、俺を引き込むかのように穴の中へと吸い寄せる。


 まばゆい光に照らされ、持っていた黒のカードの絵柄が一瞬浮き上がったように思えた。

 だが、すぐに目がくらみどんな絵が描かれていたのかはわからなかった……

 俺の視界と意識は、そこで途絶える。

 

 レアカードかとすこし期待したのに、いったいなんだって言うんだ、この事態は。意識が切れる前、そんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る