第7話 変わる事と加わる事
入学式の翌日となる今日は始業式。 生徒全員が学校に来る事もあり、実質的に学内は先日の三倍近い人口密度となっている。
クラスの配置が張り出されており、各自が昨年のクラスメイトと違う事に一喜一憂しているようだ。
私は文系コースを選んでいるので、恵ちゃんと同じクラスになれれば良いと思っているけれども……。
――貼り出された表が人垣で見えない。
背の低さをこういう時に実感して羨むことになる。
おおよその人たちがクラスを確認しては離れていき、ようやく見えるようになってから文系コースのクラスを順に見て、真ん中あたりを見ていくと……。
2年G組に名前があった。
同じリストの後ろの方を見ても、軽音部メンバーは特にいない。
先頭の方にいるであろうメンバーも見当たらない。
あれ……もしかして私、軽音部メンバーぼっち……?
気になりだしたら止まらない、他の皆はどこなのか調べてみる。
修くんの名前『
2年J組に発見。
ついでにたかちゃんこと『
逆に後ろの方にあるであろう名前の『
Jから辿って順に戻っていき、見つけたのは2年F組……隣のクラスだった……。
一年生の時もそうだったが、今年も同じようだ。
「おや、祐理菜はどこのクラスになったん?」
そう言って話しかけてきたのは話題の恵ちゃん。
「同じクラスやと連絡とか楽やし助かるんやけどなぁ」
そう言ってF組のリストからすぐに見つける。
「お、今年もFか。 テストの時に書き間違えんで済むからラクやなぁ」
暢気な感想が飛び出してくるが、私の憮然とした態度でクラスが違う事を察したようだ。
「一緒が良かったなぁ……」
そう一言だけ発すると、急に頭を撫でられた。
「こればっかりはしゃーない、放課後にまた会おうな」
「うん……」
……この瞬間、隙が見えた。
「それまで英気のもみもみ」
私はそこから何の予備動作も無しに、言葉よりも早く恵ちゃんの両胸を鷲掴みにした。
「ぎゃーー!?」
新学期になっても賑やかなのは変わらない。
「……ゆりちゃん、なんか顔に張り手されてるみたいな跡ついてない……?」
昨年から引き続き同じクラスになった演劇部のおっとりした子、『みゆみゆ』こと
「うん、ちょっとパッションが高まった代償だから……」
「??? よく分からないけど、気を付けてね」
小柄で三つ編みおさげに眼鏡という姿が過去の私と重なる。
とはいえ、私はちょっと痩せすぎだったのに対して、みゆみゆはちょっとふっくらした感じもあって人当たりの良さそうな印象。
言動も柔らかいので演劇に向いてないのではと思ってたら、いざ舞台を見ると強気な役をやってたりするので、その切り替えは凄いと思う。
そうやって見知ったクラスメイトが一緒というのは心強い。
「ゆりちゃんと一緒なら、また飽きないかもね~」
「できれば何事も無く過ごしたいトコだけどね……」
注目されっぱなしは小心者の私には大変なのだ。
「うふふふ……期待してるわよ~」
その通りで、ドタバタな未来は昨日の時点で約束された予感しかしない。
放課後……といっても始業式とクラスでの顔合わせ的なものだけで終わってしまったので、今日も昼前で終わりである。
食堂もやってないので、帰りがけにどこかで一緒に食べて帰らないかの声掛けも兼ねて、軽音部の部室へ寄る。
すると、その扉の前に何か荷物が置かれており、その前にいるのは約束されたドタバタな未来の新入生、聡美ちゃんだった。
「あ! 千代崎センパイ!」
私に気付くと、すぐに手を振って挨拶してくる。
それに応えるように、ちょっと早足で合流する。
「おはよう! なんかすごい荷物だけど、もしかして自前の機材?」
その問いかけに、両手を腰に当てながら胸を張る。
「そのとーりです! せっかくなのでやりたい放題させていただこうかと」
見てみると、それらはアンプヘッドにキャビネット。
他にも色々な機材が入っているプラスチック製の箱がひとつ。
おそらく家族か誰かに運んでもらったのだろうけど、もしかして本当にお金持ちな良家のお嬢様なのかな……?
「オッケー、鍵は恵ちゃんが持ってるから、もうちょっとだけ待っててね」
「はーい!」
既に背中には先日のギターが入っているギグケースを背負って、待ちきれないとばかりに機材を撫でている。
「この機材も、もしかして結構すごいやつ……?」
気になって、つい聞いてしまった。
その言葉に聡美ちゃんはハッと顔を上げると、私に向けて語り始めた。
「そうなんですよ! センパイはギター機材の事は……詳しく無さそうなので、大まかに説明するとですね!」
昨日の件で大体しか知らないのは理解してもらっているようだった。
「この中に三つアンプが入ってるようなもので、フットスイッチで切り替えできちゃうんです。 しかもそれぞれにゲインが二つ設定して選べるので、実質六つ!」
「三つを別々の設定にして使い分けるみたいな感じ……?」
「ですね、ただ三つとも造りが違う回路なんで、それぞれが歪ませたい時とクリーンで使いたい時で使い分ける必要はありますね」
そしてキャビネットの横にある折り畳み式のプラ箱から何かを取り出す。
中にはフットスイッチの付いた横長な形状のボードが入っていた。
キラキラシールみたいな模様がついている銀色のもので、結構重そうな見た目をしている。
「これがそのフットスイッチで、六つを選べる上に繋いだエフェクターをオンオフできちゃったりと、基本的に足元であれこれ操作するのを前提って感じです!」
鼻息が見えそうなぐらいのテンションでエフェクターケースを胸元ぐらいの高さまで持ち上げる。 その中にも色々入っているのだろう。
「色々多い事はお得、ギターの弦も多いほどお得! さらに光れば注目度アップ! 速さと重さ、数の多さはそのまま攻撃力です!」
「何を攻撃する力!?」
「とはいえ、そのまま直で繋いでしまって満足なので、エフェクターをあれこれ付けるのは私の挑戦ですね。 元々メインギターのこの子がものすごい出力なんで、うっかり上げるとすぐ歪むじゃじゃ馬なんですよ! あはははは!」
そのギターよりも本人が更にじゃじゃ馬娘なのかもしれないと思わせてくれるような、でも純粋に楽しんでいる笑顔を見せてくれる。
清楚な見た目に豪快そうな言動や性格。
無邪気に笑う姿は、すごい魅力的だった。
「あ! 弥富センパイも来ましたよ!」
その言葉に振り向くと、遠くから恵ちゃんが駆けてくる姿が見えてくる。
「よーし、じゃあ入る準備しよっか!」
「はい!」
扉を開けられるように機材を少し動かすと、私は恵ちゃんに手を振った。
合流するなり恵ちゃんは置かれた機材を見て呆然と呟くのだった。
「まじか……」
どうやらこれもやばくて凄いもののようだ。
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