29-3

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「ぐっ、かはっ……」


「うぅ……桜下、さん。大丈夫、ですか?」


ウィルが真っ白な顔で、こちらを覗き込んでいる。返事をしたつもりだったけど、声が出ていなかった。いや、かすれすぎて、声にならなかったんだ。

一体、何が起こったんだ?辺りがめちゃめちゃになっている。地面はえぐり取られ、あちこちにがれきが散らばっていた。爆発でも起きたみたいだな……?


「……っつ!」


「桜下さん!どこか怪我を!?」


「いや、大丈夫だ、ウィル……ソウルレゾナンスをやった後の、反動が来たんだ」


ちくしょう、体中の筋肉に、金串を通されたみたいだ……痛みで顔の筋肉が痙攣している。

さっきまでは、俺とウィルの魂は融合していた。それが今は、二人はそれぞれの肉体に戻ってしまっている。いつもは魔力切れで元に戻っていたが、今回はさっきの爆発のせいで、強制的に解除されてしまったらしい。


「ウィル……一体、何が起きたんだ?」


「それが、私にも……突然吹き飛ばされたと思ったら、元に戻ってしまっていて」


「く……そうだ、みんなは?みんなは無事か?」


俺とウィルはハッとして、周囲を見渡した。幸いなことに、仲間はすぐそばにいた。少し離れたところに、アルルカとライラ、フランと、彼女たちをかばうように立っているロウランの姿が見えた。ロウランがみんなを守ってくれたんだ!


「よかった!ロウラ……」


ホッとしたのも、束の間だった。ロウランは立ったまま、ゆっくりと前に倒れた。ドサッ!


「ロウラン!」

「ロウランさん!」


ちくしょう!俺は全身の痛みに耐えながら、這いつくばるようにして、みんなの下へと向かう。見かねたウィルがわきの下に体を差し込み、彼女に支えられながらヨロヨロと歩く。


「ロウラン!おい、ロウラン!それにみんなじゃ……」


俺はみんなの顔を見て、息をのんだ。ライラが顔を歪ませて、ぽろぽろと涙をこぼしている。アルルカは地面に手を付いた姿勢で、悔しそうに歯を噛みしめていた。


「アルルカ……」


「……あいつめ。味方ごと、吹き飛ばしやがったわ」


「え?」


「サード、あの男はおとりだったのよ。あのゲス、一切ためらわなかったわ」


様々な衝撃で鈍っていた俺の頭は、アルルカの言葉をゆっくりと理解した。

セカンドは、サードごと、俺たちをまとめてぶっ飛ばしたのだ。前にペトラが奴と戦った時は、多くの魔物を盾にして、犠牲をいとわない戦い方をしてきたと言っていた……


「あいつ、今度は魔物の代わりに、サードを利用したのか……」


「そうよ。遠慮の欠片もなかったわ、それこそ全力で吹き飛ばしてきた。盾がなかったら、あたしたちも無事じゃ済まなかったわよ」


「なら、ロウランは……」


「あいつの攻撃を防ぎ切ったのよ。大したもんだわ」


ウィルはあふれる涙をこらえきれず、ぽろぽろとこぼしている。俺は倒れたロウランの傍らにひざまずく。


「ロウラン……」


「えへへ……ごめんね、こんなカッコで。ちょっと今は、起き上がれそうにないの……」


「……構うもんか。ありがとう、ロウラン。みんなを守ってくれて……」


俺は心から感謝した。彼女が居なかったらと思うと……いいや、考えたくもない。ロウランはやるせなく微笑む。


「アタシにできることをしたまでなの。でも……魔力も合金も、だいぶ使っちゃった。ごめんなさいだけど、もう少しだけ、こうしててもいいかな……」


ロウランは弱々しく謝ると、まぶたを閉じてしまった。くそっ、ゆっくり休ませてやりたいところだが……果たして状況が、それを許してくれるだろうか。


「そうだ、クラークたちは?ペトラは、どうなったんだ?」


俺はあたりを見回す。辺りには、砕かれた地面とがれきが散らばり、激しい戦争地帯のようなありさまだ。セカンドの攻撃のすさまじさを物語っている。アルルカは力なく首を横に振った。


「姿が見えないってことは、どこかに埋まっているか、もしくは粉々に吹き飛んだか……」


ウィルが思わず口を押える。ロウランが目を開けて、かすれた声で謝った。


「ごめんなさい。みんなを守るので精いっぱいで……」


「お前を責めるわけないだろう。でも、それなら……あいつらは……」


強固な盾を持つロウランですら、これほどまで追い詰められる攻撃だ……最悪の予感が頭をよぎる。だがその時、離れたところに地面が、ぼこっと持ち上がった。


「あ、あれは!」


ペトラががれきを押しのけ、土を払いながら姿を現したのだ。無事だった!その下からは、クラークとアドリア、ミカエルも顔をのぞかせる。よかった!あいつらも生きてる!


「ぁんだよ。一匹も仕留められなかったのか?かぁー、オレもなまったなぁ」


喜んだのも束の間だ。聞こえてきた声に、俺は固まってしまった。


「まいいか。後は死に体のゴミ掃除だもんな」


これだけの破壊を起こしたにもかかわらず、そいつは……セカンドは、少しも疲弊した様子を見せなかった。がれきの一つの上にしゃがみこみ、頬杖をついてこちらを眺めている。


「よう。お前のあの、変身か?あれはちぃっとばかし面倒だったぜ。けどその様子じゃ、第二弾は無理っぽいな?」


くっ……見え透いたことを。あいつはきっと、それも承知だったはずだ。


「くくくっ、バカだよなぁテメーら。ぜーんぶ手の内さらけ出しちまってよ。もう切れるカードも残ってないんだろ?」


セカンドは全てわかった口調で、ニヤニヤと続ける。


「お前らにいっこ、いいこと教えてやるよ。いいか?切り札ってのは、先に切った方の負けなんだよ。テメーらは、お前の変身っつう切り札を、オレに切らされたんだ。まんまとな」


「あいつ、言わせておけば……!」


ウィルが涙に濡れた瞳で、セカンドを睨みつける。だが……悔しいが、奴の言う通りだ。俺たちは、セカンドが黒炎という切り札を切ってきたと思い込んでしまった。だが、奴にはまだサードという隠し札があった……勝負所を誤ったのだ、俺たちは。


「さてと……ま、もうなんもできねーだろうが、ここまで頑張った褒美だ。最後まで、この炎で殺してやんよ」


セカンドは油断なく、黒炎を纏った。くそったれ……今は、悪態をつく余力すらないってのに。


「させ、るか!」


ペトラは流石だ。あの爆発からクラークたちをかばってもなお、拳を握って走り出すことができる。だがやはり、一人では無理だ。セカンドが炎に包まれた腕を振り上げただけで、ペトラはあっさりと吹き飛ばされた。容易く彼女を退けた奴は、そのままこちらへとまっすぐ進んでくる。


(これは……)


冷や汗が額を伝う。


(さすがにマズいんじゃないのかよ、これ……!)


俺はまともに体を動かせない。ロウランは魔力切れで、奴には魔法も効かない。一も二もなく逃げるしかないが、奴には風の魔法による遠隔攻撃もある……

心臓が早鐘を打つ。どうする、この状況……!



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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