29-2

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ズガガガーン!

クラークの雷の槍が、セカンドを直撃した。先ほどの戦闘で、奴の鱗の盾も、電撃までは防げないことは分かっている。


「破ったぞ、セカンド。貴様の最強の盾……!」


(行ける……行けます、今度こそ!これなら……)


私もウィルも、確かに勝利の予感を感じた。まだ確実ではないが、道筋がはっきりと見えた、そんな気がしたのだ。


「……サァァァァァドッ!!!!」


だが、私はすぐに、それはまやかしであったと気づいた。いや、気付かされた。

ズザァッ。


「……」


そいつは唐突に、上空から飛び降りてきた。

私たちの背後に、奇妙に無表情な男……三人目の勇者。サードが、姿を現したのだ。


「っ!サードだと……!?」


その男は劇的な登場をしたにもかかわらず、能面のように無表情だった。光の無い双眸そうぼうでこちらを眺めている。しかしその顔はよく知っているものだ。もっとも、以前の奴は、もっと表情豊かではあったが。


(サード!これは、本物のサードってことですよね?)


「ああ。どこにいるのかと思っていたが……」


私たちがサードだと思っていた男は、セカンドが変身した姿だった。ということは、本物のサードもどこかにいたはずだ。それが、今背後に現れた男だろう。今の今まで息を潜めていたのだろうが……


「いまさら援軍に駆け付けたというわけか……!」


よりにもよって、こんなタイミングで。敵の数が二倍になっただけにとどまらず、サードはれっきとした勇者。その力は未知数だが、二倍どころか十倍にはなったと考えたほうがいいはず。しかも奴は、私たちをセカンドと挟む形で現れた。挟撃という最悪の形だ。


「……」


サードは腰元の剣を抜いた。何の変哲もない、普通の長剣。奴自身の素朴な風貌も相まって、連合軍の中の一人に勘違いしてもおかしくない。

だがそれとは別に、私の直感は、奴を近づけてはならないと警告している。


「アルルカ!」


アルルカは私が細かく指示をしなくとも、即座に杖を構えて呪文を唱える。


「メギバレット!」


杖先から、氷の弾丸が発射された。高速の弾丸は、正確にサードの眉間を捉え……ていた。


「なに……?」


(え?)


奴は……弾丸を、かわしたのか?ただ、顔色一つ変えずに、身をかがめただけ。その最小限の動きで、アルルカの攻撃を避けた。


「なんだ……奴の動きは」


エラゼムのように、超絶技巧で跳ね返したわけではない。フランのように、驚異的なスピードで回避したわけでもない。ただ、そこに来るのをはじめから分かっていたかのように、避けた。


「なによあいつ……気味悪いわね!」


アルルカは悪態をつくと、再び杖を構えた。だがサードはそんなことにもお構いなしに、

剣を横に垂らしたまま、少しずつ歩く速度を上げ始めた。


「舐めやがって……!これならどうよ!」


アルルカは杖を振り上げると、勢いよく地面に突き刺す。


「ペタルカメリア!」


サードの行く手の地面が割れて、何枚もの鋭い氷の刃がせり出してきた。それでもサードは足を止めない。軽くステップを踏むと、紙一重でそれを避けていく。馬鹿な、数ミリ先に刃が迫っていて、どうして眉一つ動かさずにいられるんだ?


「なら、これでどうだ!ピーコックウェイブ!」


アルルカに合わせて、クラークが加勢しに来た。剣をスイングすると、その軌跡から電撃が噴き出し、サードに向かって扇状に広がっていく。その電撃に対して、サードが取った行動は、意外なものだった。

サードは身を低くかがめると、そのまま前転して、電気の波を潜り抜けたのだ。


「バカな!」


クラークも唖然としている。確かに、波の下側は電気の層が薄いが、だからと言ってああも冷静に飛び込めるものか?電気は固形じゃない。少なからず感電しているはずだし、範囲を見極めるのも難しいはずだ。だが奴は、それをやってのけた。

立ち上がったサードは、顔色一つ変えていない。恐れても、得意げになってもいない。ただ、前しか見ていない。


「どいて!わたしが倒す!」


クラークのわきから、フランが飛び出す。迫りくるフランを見ても、サードは何の反応も示さない。


「なんなのだ、あの奇妙な余裕は……」


(っ!桜下さん、前!)


なに?しまった!


「ぐうっ!」


ズザザザザ!突如背後から、土煙を上げながら、なにかが転がってくる。黒い塊に見えたそれは……


(ぺ、ペトラさん!)


「不覚!サードに気を取られている間に……!」


それは、倒れたペトラだった。急いで後方を振り返ると、ぶすぶすと煙を上げたセカンドが、ギラギラした視線をこちらに向けているところだった。


「すまないな……どうにも私だけでは、奴を止められなんだ」


ペトラは膝をついて立ち上がった。幸い、まだ動けるようだ。それに彼女を責めることもできまい。今までは私達総出で、なんとか互角に持ち込んでいたんだ。それが今や……


「サアアァァァド!そいつら、一人残らずぶっ殺すぞ!」


セカンドが吠える。その声にはさっきまでの余裕がなく、代わりに傷ついた獣のような荒々しさがにじみ出ていた。手負いの獣ほど、凶暴さは増すと言うが……

サードはそれに応えもせず、無表情のままこちらに進み始めた。


「ちぃ!奴を止めるんだ!」


アドリアが弦を引き絞る。だが、


「危ないぞ!」


ペトラが叫び、アドリアを突き飛ばした。彼女が居たところを、鋭い衝撃波のようなものが通り過ぎ、地面を砕いた。


(これ、風の魔法です!)


「ヴォルフガングが使用していたものか……!」


ヴォルフガングの正体はセカンド。当然、同じ魔法を使えるはず。どうやらこちらには接近せず、遠距離攻撃に徹するつもりらしい。


「守りに入られるとまずいぞ……!」


私の技では、一度に複数の魔法に対処できない。それをさせないためにも攻撃を集中させたいが、セカンドに意識を裂くと、今度はサードが迫ってくる。


「ちぃ!あっちはわたしが何とかする!」


「っ、待て、フラン!」


フランは制止も聞かずに、再びサードへと突進した。次の瞬間。


「……ローリーポリー」


(なっ。サードが、魔法を?)


いつから詠唱していたのか分からないくらい、奴は静かに呪文を唱えた。奴の周囲に、いくつもの岩石の塊が生み出されていく。そのうちの一つが、フラン目掛けて飛んできた。


「くっ!」


フランはわきに転がって避けた。あれが直撃したら、フランは一瞬で肉塊になってしまうだろう。さらにサードは、フランだけを攻撃するために呪文を唱えたわけではなかった。岩石は、私たちの方へも飛んできたのだ。


「ダーリン!ここは私が!」


ロウランが金色の盾を構えようとした。そこに、サードの第二の呪文が重ねられる。


「ヴェルスクエイク」


ずぐん!宙に浮いている私には、なぜかロウランたちが、一斉にバランスを崩したように見えた。が、すぐに思い当たる。


「地震か!」


(あの人、一体いつ詠唱をしてるんですか!口をほとんど動かしてませんよ!)


無表情なせいで、口すら動かなくなったのか?それとも、あれが勇者サードの能力なのか。どちらにしても、これでは岩を防げない。


(桜下さん、私達の力で!)


「もちろんだ!いくぞ、カルマート:フォルテ!」


パァーン!振動したロッドは、無数の岩石をことごとく粉砕した。それが魔法である以上、私には届かないぞ!


「使ったな?」


な、に?

私は、はっきりと見た。セカンドが口角を吊り上げて、不気味な笑みを浮かべているのを。


「危ない!」


誰が叫んだのかは、分からなかった。


「スーパーストーク!」


だが、その声を聞いた一瞬の後には、私の視界は宙を舞っていた。


(きゃああぁぁぁ!)


ウィルの悲鳴が、耳元で聞こえる。


「やられた……!」


私の技が連発できないのを、見抜かれていた。サードの呪文に使うように、誘導されていたんだ。そんなことにも気付けなかったなんて……!

私たちはつむじ風に巻き上げられたかのように、何度も回り、回り……




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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