15-2

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パアァーーーーーーー!!!!


ものすごい光に、視界が真っ白に塗り尽くされた。俺は今、目を開いているのか、閉じているのか?まぶたの裏まで真っ白だから、それすらわからない。

そして気が付くと、俺は真っ暗な空間にいた。え?今さっきまでは、白い光に包まれていたのに……


「ここは……?」


空間はただただ暗く、星一つない宇宙のようだ。足元に地面はなく、頭上に天井もない。左右に壁も存在しない。無限の虚空……いや、そうでもないな。よーく目を凝らすと、霧のようなものが立ち込めているのが見えた。だけど、その霧に触れても、冷たくもなんともない。なんだか現実じゃないみたいだな。


「ん……前も、こんなところをどっかで……?」


あ、そうだ。ウィルの心の中!あん時も、こんな感じの空間に……てことは、ここも誰かの深層意識なのか?


「うーん……おーい!誰かいるかー!?」


「うるさいな。耳元で大声出さないでよ」


「うわー!?」


びっくりした!俺のすぐ隣に、フランが立っていた。いや、浮かんでいた……?地面がないから、どう言うのが正しいのか分からないな。


「フラン、いたのか……てことは、ここはお前の中なのか?」


「え?わたしの、中?わたしも気付いたら、ここにいたんだけど」


あ、そうなのか。フラン自身も、ここがどこだか分かっていないんだな。


「えーっと、前にウィルとも、こんなふうになったことがあってさ」


「ウィルと……?」


「うん。そん時と同じだとしたら、ここはフランの心の中だと思うんだけど」


「わたしの、心……」


「ああ。ただ、なんでこうなったのかは、説明できないんだけどな……フラン、俺たちがどうなったかって、覚えてるか?」


「ううん。とにかく必死で、あなたのとこに行かなくちゃって思ってはいたけど」


「あ、ああ、うん。それでフランが飛び込んできて、俺が手を伸ばして……」


そう言えば、あの時。フランは俺に、自分の魂を使ってくれと叫んだ。その言葉を聞いた俺は、本能的に右腕を伸ばしたのだ。


「魂……ひょっとして、これは俺の能力のせいなのかも」


「え?」


「フランの眼を見た時、なんだか俺、全身がぞわぞわってなったんだ。今だからわかるけど、あれたぶん、魂が震えてたんだと思う」


「魂……」


「フランの魂を感じて、それで……だから今、俺はフランの中にいるのかも」


「それって、あなたが能力を使うと、全身が霊体化しちゃってたことと関係あるの?」


「あー、そう言われればそうかもしれない。霊体化、つまり魂だけの状態になったから、俺はフランの心……いや、魂の中に入ることができたんだな」


「じゃあ……今、わたしたちの魂は、一つになってるってこと?」


おっと、そいつは……どうなんだろう。二つの魂が一つになるなんてこと、あるんだろうか?魂の融合……ふいに、緑の瞳のネクロマンサー、ファルマナの言葉を思い出した。死霊と魂を重ねること。その先に、死霊術の新たな可能性が眠っている、と……


「死霊術の、可能性……」


「え?」


「……フラン。頼みがあるんだ」


フランはまばたきを一つすると、こくりとうなずいた。


「いいよ」


「えっ。ずいぶん即答だな」


「うん。そうじゃなきゃ、自分の魂を使えだなんて言わないよ」


フランは自分の胸をそっと押さえた。


「不思議なの。自分でも、どうしてあんなこと言ったのかわからない……それこそ、胸の奥から突き上げてきたみたいだった。でも、だからこそ、それに嘘はないから」


「……そっか。ありがとな、フラン。よぉーし!それなら、本当に借りちゃうぜ。魂を、な」


フランが不思議そうに首をかしげる。俺だって、今からやろうとしていることが、本当にできるかわからない。けど、なんだろうな。奇妙な自信?直感?みたいなものがある。


「お前の力を、俺に貸してくれ。結局俺は、一人じゃ闘えないんだ。けど、お前たちがいてくれれば……俺は、新しい扉を開くことができる」


そして、きっとその先に……俺の、新しい力がある。フランは、両手でそっと俺の手を取ると、自分の胸の真ん中へと導いた。


「使って。あなたの為なら、魂だって惜しくない」


う。胸の奥に、なにかこみあげてくるものが……でも、今はそれに流されている場合じゃないだろ。しっかりしろ!俺はぎゅうっと目をつぶると、カッと見開いた。そして、叫ぶ。


「黄泉の岸辺にて出会いし二つの魂よ!今、ここに一つにならん!」


共鳴ともなけ!ディストーションソウル・レゾナンス!!」




『う……こ、こは?』


困惑したようなフランの声が、オレの耳元で聞こえる。だけどオレの隣に、フランの姿はない。


『え?これ、どうなってるの?あなたの術は、上手くいったの?それとも……』


「フラン、まあ落ち着けって。なぁーに、じきに慣れるさ。それによ、感じねえか?」


『え……?それにあなた、なんだか口調が……?』


「カッカッカ!細けえことは言いっこなしだ!それよか今は、こっからのパーティータイムを楽しもうぜ!」


ぞくぞくと震えが走る。湧き上がってくる力に、胸の奥がぐつぐつと煮えたぎるようだ。


「最っ高だぜ、フラン!オレとお前は、魂の相性もバッチリらしいな!」


『なっ、なに、いって』


「おぉっと!お相手も準備万端みたいだぜ。これで役者がそろったなあ!」


オレは背筋を伸ばして、片腕をすいっと差し出した。伸ばした腕の先には、驚愕の表情をする好敵手、クラークがいる。


「ハッハァ!どうしたクラーク!ハトが豆鉄砲を喰らった顔してるぜ!」


「……“お前”は、“君”なのか?けど、その姿は……」


「おかしなことを聞くなァ!オレはオレだし、お前はお前だろう?外見なんざ大した問題じゃねェ、魂さえありゃ十分だ!」


「な、何を言っているのか……」


「おいおい、ゴタクはもう勘弁だ。それよりも、さっきから血がうずいてしょうがねーんだ!かかってこいよ、勇者サマ!こっからが第二ラウンドだ!」


オレは伸ばした指先を、くいくいと折り曲げて見せる。するとクラークは、ぽかんと開けていた口を引き結んで、すっと目を細めた。イイねぇ、いい目だ。やつにもプライドってもんがあるから、売られたケンカは買わないわけにはいかないんだろう。


『……いいの。あんな挑発して?』


フランの呆れた声。今はその表情は見えないが、間違いなくやれやれ顔をしているはずだ。


「モチロンさ。ククク、楽しくなってきやがった……!」




「こ、これは、どういうことでしょう……!?」


アナウンス係の男は、今自分の目の前で起こったことが、到底受け入れられなかった。まばゆい光に包まれたと思ったら、少年と少女の姿が消え去り、代わりに異形の大男が出現していた。誰が聞いても、頭がおかしくなったのかと疑われる状況だろう。しかしそれ以前に、ルールに精通したアナウンス係としては、見過ごせない点があった。この勇演武闘においては、選手に対するあらゆる外部からの手助けは禁止されている。詳細は分からないものの、少年の下に少女が飛び込んだ場面は、はっきりとこの目で目撃している。あの大男の正体がなんであれ、ルール違反があった以上、この試合は即刻二の国の反則負けとすべきだ。彼は試合の中止を宣言しようと、深く息を吸い込んだ。

がしっ。


「止めるな。このまま続けさせろ」


「え……?えぇ!の、ノロ皇帝閣下!?」


男の肩を掴んだのは、この大会の主催者である女帝ノロだった。


「よ、よろしいのですか?」


「当たり前だ。こんなにも胸が躍る展開なんだぞ?いまこの場に水を差すものがいたら、そやつは四肢を引き裂かれても文句は言えんだろうさ」


男は顔を青ざめさせると、こくこくと何度もうなずいた。

ノロの目はらんらんと輝き、まるで夢多き少年少女のようだった。頬を上気させ、食い入るようにリングを見つめている。


「魅せてくれるわ、二の国の勇者め。さあ、これからどのように舞ってくれるのだ……!」


勇者対勇者。ノロが本当に見たいと望んでいた試合が、今まさに始まろうとしていた。




「さァ……いくぜええええええ!」


地面を蹴って、走り出す!


「うおおおおおお!」


クラークも雄たけびを上げて駆け出した。オレたちの間は一瞬で縮まる。


「うおらぁぁぁ!」


跳べっ!すべてのエネルギーを、拳に集約させて!ドガィーーン!


「ぐぅぅ!」


クラークはオレの渾身のパンチを、剣の腹でガードした。が、ガードごと吹っ飛ばされてしまった。ヒャハハ、あいつは今頃、鉄球にぶっ飛ばされたような衝撃を感じているはずだ。今のオレには、フランばりの力があるんだぜ!


「まだまだいくぜおらぁ!」


さらに足に力をこめると、オレの体はあっという間にトップスピードに乗った。足が風になったみたいだ!あっという間にクラークに肉薄する。


「どりゃあぁ!」


「ぐあぁ!」


オレの放った回し蹴りは、ふらついているクラークを側面からさらにぶっ飛ばした。あっちこっちに振り回されて、やつも相当まいっているだろう。


「手加減は無用だぜェ、クラーク!全力でかかってこいやァ!」


「~~~っ!くそっ!」


素早く体勢を起こしたクラークの手元から、バチバチという音が漏れ始めた。ふふん、やっと本気になったみたいだな!


「お望み通りやってやる!後で文句を言うんじゃないぞ!レイライトニング!」


バチバチバチ!やつの剣先に、雷の槍が生成された。ぐっと剣を押し出すと、槍はまっすぐにこちらへ飛んでくる!


『きてるよ!避けて!』


「いいや、フラン。その必要はねェ!」


『え!?』


オレは駆け出すと、電の槍に向かって拳を突き出した。スガガーン!オレのパンチによって槍は相殺されたが、その威力は例えるなら、猛スピードのダンプカーをぶん殴ったような衝撃だった。当然、オレの腕もタダじゃすまない。あまりの反動に、腕の肉が真っ二つに、肘まで裂けてしまった。


『あぁ!無茶するから!大丈夫!?』


「平気さ。よく見てろォ」


シュウゥゥー。腕から白い煙が上がる。すると裂けた肉がぴたりとくっつき、まばたきする間に元通りになった。


『うそ……』


「カカカ!オレたちにエラゼムみてぇな鎧はないが、かわりにこのヨロイがある!」


どんな傷だって瞬時に治せるのなら、すなわちそれが最強の盾だ!




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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