9-3

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神殿から戻ってくると、レストハウスの前に数人の人だかりがあった。お。連中は、クラークたちじゃないか?そしてやつらと話しているのは、鳶色の髪の少女。げえっ、アルアだ……


「ん……ああ、君たちか。光の聖女様はどうだった?」


俺たちに気付いたクラークが声を掛けてくる。アルアは俺の姿を見ると、ゴキブリでも見たような顔になった。ったく、嫌われたもんだな。余計な小競り合いはごめんなので、俺はアルアから二回りほど離れたところで足を止める。


「いいや、ダメだった。どうしようもないってさ」


「そうか……僕たちも方々当たってみたけど、まるで聞いてもらえなかった。今も、アルアに事情を説明していたんだけれど……」


アルアにも?こんな少女にまでなんて、クラークのやつも相当手詰まりになってんな。そのアルアは、汚物を見るような目で俺を睨むと、クラークに向き直る。


「クラーク様。先ほども言いましたが、私は反対です。というより、おっしゃっている意味が分かりません。勇演武闘は、我が国の強大さを他国にアピールするまたとない機会です。それに今回の相手は、“あの”二の国の勇者。クラーク様ほどの実力があれば、勝利は揺るぎないでしょう」


く、言ってくれる。フランが今にも蹴り飛ばしそうに足をひくひくさせていたので、怒るどころじゃなかったが。


「勝利が確実なのに、試合を放棄する意味が分かりませんわ。クラーク様も誇り高き一の国の勇者なのですから、しっかり実力を示してくださいませ」


「で、でも。僕らには、戦いが不得意な子もいるんだよ」


「それが?勇者のパーティーである以上、いつでも戦う覚悟はあるはずでしょう。力で劣ることはどうしようもありませんが、それが戦わなくていい理由にはなりませんわ」


アルアは冷ややかな目でミカエルを流し見る。ミカエルはびくっと震えて、気まずそうに視線を逸らした。


「私、このあとに行かねばならないところがあるんです。大変失礼ですが、そろそろ。クラーク様、ご健闘……いいえ。華々しい勝利を、期待していますわ」


アルアは軽く膝を折ると、すたすたと言ってしまった。フランが舌打ちする。


「チッ。嫌な女」


同感だ。いちいち嫌味ったらしいぜ。


「なあクラーク、あのは礼儀正しい、いい娘だって言ってなかったか?」


「あぁ……嘘じゃないさ。実際、彼女の言っていることは正しいんだよ。彼女自身も傭兵だからね。軍人気質っていうのか……」


「つっても、それで困るのはおたくらだろ?」


「ああ……ふぅ」


クラークは物憂げにため息をついた。すると、それを見ていたミカエルが、ローブの裾をぎゅっと握りしめながら口を開いた。


「あ、あの!クラーク様。私なら、私なら大丈夫です。心配いりません、戦えます」


「ミカエル……でも」


「アルアさんの言う通りです。私だって、クラーク様のパーティーメンバーなんですから。こういう時に戦えなくちゃ、何のためにいるのか……」


「そんなこ……」


「そんなことない!」


うえ?俺とクラークはそろって口を開けた。叫んだのは、フランだったからだ。


「え?ふ、フランさん……?」


「あなたの力は、人を癒す力でしょ。わたしみたいに、壊すことしかできない力と違う。治すのは、あなたにしかできないことだ。それを一緒にしないで」


「フランさ……」


「それに……あなたが良くても、わたしは、あなたとは戦いたくない。わたしたち全員、そう思ってる」


フランの言葉に、ミカエルははっと目を見開いた。うん、その通りだ。


「そうだな、フランの言う通りだ。ミカエルには、でかい借りがあるから。できる事なら戦いたくないって、そう思うぜ。それくらい、あんたのことを買ってるんだ。卑下なんかしないでくれよ」


俺が続けて言うと、ミカエルは瞳を潤ませた。クラークがむすっとした顔で言う。


「……僕だって、そう言おうと思っていたさ。ミカエル、君に百人力の力がないからと言って、誰も君を責めたりはしないよ」


「く、クラーク様……うぅ」


ミカエルの肩を、コルルが優しく抱いた。感動的だが、それで問題が解決したわけじゃあ、ないんだよな。


「だけど……弱ったな。正直、万策尽きている感じなんだ。僕たちが頼れるつては、すべて当たり終わってしまった」


肩を落とすクラーク。あ、そうだ。まだ希望はある!さっき聞いた、キサカからの話があるぞ。


「それなんだけどな。さっきキサカに聞いたんだけど、過去には勇者だけ戦う勇演武闘もあったみたいなんだ」


「え?仲間たちは戦わなかったということかい?」


「そうだ。今回もそういう特例を認めてもらえば、このバカ騒ぎも少しはマシになるかもしれないぜ」


フランたちがギョロリとこちらを睨んでくるが、今は無視だ。現状では、これが一番いい案なんだから。


「特例か……それが本当ならいいけれど、それをどう認めてもらうかだね……」


「あれ、そういや勇演武闘のルールについては、誰に直訴すりゃいいんだ?」


「それが、ノロさまなんだよ。勇演武闘の最終決定権を持っているのは」


げげっ!まじかよ!いや、でもそうか。今回の勇演武闘は、ノロが発端だものな。


「マジか……それを聞くと、一気に現実味がなくなってきたな……」


「ああ……けど、今はその可能性にかけるしかなさそうだ。とりあえず今は、その案を採用する方向で行こう」


「わかった。こっちもヘイズに相談してみる。今夜、またこっちにこいよ。そこで意見をまとめよう」


「わかった」


クラークはうなずくと、王宮の方へと戻っていった。ヘイズから聞いた噂では、勇演武闘開催までもう幾日も残されていないという。今夜あたりで、解決策が見つかればいいのだけれど。




その日の夜、俺ら、クラークたち、そしてヘイズの三陣営(ヘイズは一人だったが)は、再びレストハウスの玄関ホールに集まった。俺とクラークは、その日の成果をすでに報告済みだ。成果と言っても、ほとんどないに等しいけれど……ただ、俺がキサカから聞いた話に関しては、ヘイズは大いに関心を寄せていた。


「なるほど。過去にあった、特例措置か。実はオレたちも、それに近い話を聞いたんだ。んで、その事を女帝側に問い合わせてみた」


「え、そうだったのか?そ、それでどうなった?」


「ああ。最初はほとんど聞いてもらえなかったが、オレらがあんまりしつこいもんだから、向こうも嫌気がさしたみたいでな。ようやく、とある条件の下でなら、譲歩を認めてくれたんだ」


「その、条件というのは!?」


俺もクラークも、ソファから身を乗り出して、ヘイズの先の言葉を待っている。


「ああ。今回の勇演武闘、勇者同士の闘いはせず、仲間同士の試合のみという形でなら、特例を認めてくれるそうだ」


「……は?」


「え……?」


なに?今、何て言った?


「え、え?俺らは戦わない?俺らだけが戦うんじゃなくて?」


「そうだ。各勇者の能力にあまりにもハンディがある、それじゃ真っ当な試合にならないと申し立ててみたら、さすがに向こうも揺らいだようでな。ならば、仲間たちならば実力も拮抗して、いい勝負になるだろうってさ」


「てさって……冗談じゃねーぞ!」


俺はテーブルを蹴飛ばすようにして立ち上がった。


「ふざけんな!俺が戦うならともかく、どうして俺だけが、安全な場所でぬくぬく見物することになるんだよ!」


「そう怒鳴るなよ。不服なのはわかるが、これが限界だったんだ。それに、こいつはそう悪い話でもない」


「どこが……もががっ!?」


俺がなおも言い募ろうとしたその時、突然背後から手が伸びてきて、俺の口をふさいでしまった。つ、冷たい。この手、ウィルだな!?それと同時に、強い力で背中を引っ張られて、俺はソファへと倒れこむ。な、なに!?フランが俺の腰をしっかりと抱いて、立ち上がれないようにしていやがる!フランはほっそりした手足を巧みに絡めて俺の抵抗を封じると、何食わぬ顔でヘイズを見つめる。


「その話、続きを聞かせて」


「あ、ああ……」


「うぅ~~~!むぅ~~!」



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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