10-2

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「……なるほどな。俺たち全員を檻に入れて、山の上の城まで連れていく、と。それで、その先は?」


「そ、それだけだ!俺たちの役目は、そこまでしか聞かされていない!」


「そうか。城に入るときは、何か特別な手順がいるのか?」


「手順だと?そんなもの必要ない。いつも生贄を運ぶときは、勝手に門が開いているんだ」


「なるほど……城主の目を欺くには、あくまで生贄を輸送するテイを保つ必要があると……そんじゃあんたたちは、この後すぐに俺たちを運ぶつもりだったのか?」


「い、いや。日が落ち、シスターの儀式が始まってからだ。俺たちは、その後を追うように山を登れと指示されている」


ふむ、確かに。檻に入った俺たちをリンが見たら、何事かと思うだろうからな。


「……よし。大体段取りはつかめたな。それじゃあ、あんたたちはもう用済みだ」


俺がエラゼムに目配せすると、エラゼムはコクリとうなずいた。エラゼムに抑えられていた男が真っ青になる。


「ま、まって、待ってくれ!俺はただ、神父様に命令されてやっただけなんだ!だから、どうか命だけは……」


「すまんが、少し黙ってもらおう」


ドスッ!エラゼムの鉄拳が男のみぞおちにめり込むと、男はグルリと白目をむいて気絶してしまった。


「そんじゃ、次はあんただ」


俺はフランが押さえつけている方に、手のひらを突き付けた。男の目が俺の手にくぎ付けになる。


「ソウル・カノン!」


ドンッ!俺の手から魔力の塊が放出され、男の顔面に直撃する。


「ウィル、いまだ!」


「はい!」


ウィルが水に飛び込むような格好で、男の体へとダイブする。シュパァー!青白い光がふきだし、男の体は一瞬びくりと痙攣すると、やがてぱちくり目をしばたいた。


「……入りました。うまくいきましたよ」


よし。ウィルの憑依、成功だ。ウィルが中から操る男は、手を握ったり開いたり、膝を曲げ伸ばしして動きを確認している。うん、問題無さそうだな。


「あとはコイツだな。ライラ、頼む」


「うん!」


ライラはエラゼムが気絶させた男の前に立つと、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。


「ブリーズアイヴィ!」


ふわっ。部屋の中にそよ風が吹く。すると気絶していた男の体が、むくりと起き上がった。


「おっとと。おっとっと……」


ライラが手をふらふらさせると、男の体もぐらぐら揺れた。ガツン!うわー、痛そう。顔面から壁に突っ込んでる。


「あちゃ、意外と難しい……いちおう、歩いてるっぽくさせてみるけど。しゃべったり、リアルな感じにはできないよ」


「ああ。そのへんはウィルにやってもらおう」


ウィルが入った男はこくりとうなずいた。


「それじゃ、外に出ないとな」


おそらく宿の表に、檻とやらが置いてあるのだろう。問題は、そこまでどうやって行くかだ。俺たちは薬で眠らされた事になってるから、歩いて行くわけにもいかない。表に他の教団員がいないとも限らないし……というわけで。


「ふぎぎぎぎ……」


「ウィル……大丈夫か?」


「何の、これしき……」


ウィルとライラの操る男たちに運ばれる形で、俺たちは宿の外へと出ることとなった。受付の前を通る時、しゃがれた声が俺たちに話しかけ、俺は飛び上がりそうになった。


「……大丈夫でしたか?何やら物音がしましたが」


「わへ!?」


ウィルがすっ飛んだ声を上げる。無人のように見える受付だけど、やっぱり奥に人がいたんだ。


「あ、ああ、はい。この通り、問題ありませんよ」


「……?そうですか……」


しゃがれた声は少し訝しげだったが、それ以上は追及してこなかった。あ、危ないところだった。慎重すぎるに越した事はないな……

宿の外には、二頭立ての立派な馬車が停められていた。だがよく見ると、窓には鉄格子がはまり、扉には南京錠で鍵がかけられるようになっている。罪人を輸送する車みたいだな。


「じゃあ、入れちゃいますよ……」


ウィルは小声で言うと、俺をその馬車へと押し込んだ。荷馬車の中は暗く、黒っぽい染みであちこち汚れていた。けど、案外これはいいぞ。窓くらいしか開いているところは無いので、外の視線を気にしなくても済みそうだ。


「それじゃあ、みなさんを連れてきます」


ウィルは窓から声をかけると、残りの仲間たちを担ぎに宿へと戻っていった。


「ふぅ、ふぅ……こ、これで全員ですね」


最後に鉄の塊とも言えるエラゼムを運び終わってから、ウィルin男は息を吐いた。誰かの肉体に入っていると、アンデッドとはいえ疲れを感じるのだろうか。


「おつかれ、ウィル。それじゃあ、時間になるまで……」


「っ!静かに!クライブ神父です!」


ウィルが鋭くささやいたので、俺は慌てて口をつぐんだ。みんなして床に寝転がり、寝ているふりをする……そのうちに、外からウィル(が入っている男)へと声をかける、クライブ神父の声が聞こえてきた。


「おい、うまくいったのか?」


「は、はい。いま、全員運び終えたところです……」


ウィルの少しどもった応答が聞こえる。俺は薄目を開けて様子をうかがっていたが、ふっと窓の部分が影に覆われた。クライブ神父が、中を覗き込んでいるらしい。


「……よし。ふん、馬鹿なガキどもよ。お前たち、手筈は忘れていないだろうな?」


「も、もちろんです。日没後、シスターの後について、山を登ればいいんですよね」


「馬鹿者、それまで油を売っているつもりか。シスターの出発までまだ時間がある、それまでに少しでも距離を縮めておけ。予定時刻より遅れたらどうなるか、いまさら言わなくてもいいだろうな?」


「あっ、そ、そうですね。そうでした……」


「まったく、ウスノロめが。町はずれの林の中なら、シスターに見られる心配もあるまい。そこまで先行し、シスターが行き次第続くのだ」


「はい、了解しました」


「ふん、どうだか……おい、そっちの男はどうかしたのか。さっきから一言もしゃべらないが」


あ、まずい!ライラが魔法で動かしている方だ。あくまで魔法で手足を動かしているだけ、言っちまえば操り人形みたいなもんだから、しゃべったりすることなんてできるわけない。ウィル、なんとかごまかせ~!


「あ、ああ、あの、こいつ、昼に妙なものを食べたらしくて。そのせいで、だんまりなんですよ。責めないでやってください……」


「ちっ、馬鹿が。ヘマをこくような真似をしてみろ。今度はお前がこの檻に入ることになるからな。覚悟しておけ」


クライブ神父は口酸っぱくしかりつけるが、男は気絶しているからまったく聞こえていない。意識を失っている顔が、神妙にしているっぽく見えるといいんだけど……


「私はもう行くぞ。くれぐれも、抜かりの無いようにな」


「は、はい」


ほっ……神父はとりあえず溜飲が下がったようだ。神父が去って行く足音がする……




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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