幕間



 自室から玉座に戻る途中ヴァイセと雑談をしていた。

 行く先々で部下たちがお辞儀をしてくる。そして軽く挨拶を交わす。



「魔王様、おはようございます。ヴァイセ様も」



「ああ、おはよう。」




「そういえばあの件はどうなっている。」



 ヴァイセは首を傾げた。



「あの件とは何ですか?」



「ほらあの、なんだ。チャイルとの件だよ。

 この間喧嘩をして愚痴ってきたではないか。」



 その時もいや、それ以上の形相で私の部屋にやってきた。



「あー。あの件ですか。もう仲直りしましたよ。

 チャイルが謝ってきてくれたんです。

 それにこれをプレゼントしてくれたんです。」



 そういうと、必死に背伸びをして首元をアピールしてくる。

 どうやらネックレスをプレゼントされたらしい。



「お前は単純でいいな。」



「何か言いましたか?何か馬鹿にされたような気がしました。」



 別に馬鹿にしていないのだが、むしろそれが羨ましいとすら思ってしまう。



「お前らは仲がいいなと言ったんだ。」



 ヴァイセは体をくねらせる。



「なんだ。そういったんですね。それ程でもないですよ。」



「んっ、んっ。」



 咳払いをすると、何かわかったのかくねくねするのを止めた。



「それより、喧嘩するたび私の部屋に飛び込んでくるのはやめてくれないか。

 いつもいつも心臓に悪い。他に話す相手はいないのか?」



「申し訳ありません。その、話せる相手が魔王様しかいないんです。

 断じて、仲いいものがいないわけではないんですよ。


 ただ、私はこの見た目ですから、

 弱みを見せて舐められるわけにはいかないんですよ。」



 ヴァイセにも思うところがあるのだろう。



「はあ、まあ今度からは時間を考えてくれよ。

 毎回夜中に叩き起こされてはこちらの身が持たない。」



「はい、承知しました。」



 目を輝かせて言っていた。



「そうだ、魔王様はいい相手いないんですか。」



 まずい。変な話題になってしまった。どう切り抜けようか。



「いないよ。それに私はそういうことはいいんだよ。」



「そういうわけにはいきませんよ。魔王様が良くても周りが気になります。」



「そう言われてもな。私はそういうことに疎いんだ。

 それに今考えている暇はないだろう。」



 これで切り抜けられるだろうか。



「ダメです。考えてください。」



 ダメだった。



「それにチャイルに疑われるです。

 その、私たちの関係を。それが私たちの喧嘩の大抵の理由だったりするんです。」



 これはいい。この策でいこう。



「私たちの関係ってどんな関係だ?」



「言わなくてもわかるでしょう。」



「うーん。いくら考えてもわからない。教えてくれ。それも具体的に。」



 ヴァイセは言いづらそうにする。



「もう、魔王様わかって言ってますよね。

 あの、その・・・・・・手を繋いだりとか?」




 恥ずかしそうに言葉を発した。

 どれだけ初心なんだよ、と思ってしまう。

 笑いが漏れてしまう。



「ぷっ。そうか、手を繋いでいる関係か。

 それはまずいな。そう思われないように善処するよ。」



 というか、その一端はヴァイセにあるのではと思ったが飲み込む。



「お、お願いしますね。」



 ちょうどよくチャイルが現れる。



「お疲れ様です。魔王様。」



「おお、チャイルか。元気そうで何よりだ。」



「お仕事ですか?」



「ああ、そんなとこだ。ああ、それと、」



 私はチャイルの耳に顔を近づける。



「私とヴァイセはお前が思うような関係ではない。

 それと、ヴァイセのこと悲しませるなよ。そんな事したら、わかるよな?」



 語気を強めて言う。



「は、はい。承知しました。」



「それじゃ、チャイルも仕事に励むように。」




 チャイルから離れてから、ヴァイセに話かける。



「直接言ってやったから大丈夫だろう。」



「いや、何を伝えたのか分かりませんが、

 チャイルの様子を見ると、他のところを問い詰められそうです。」



 その言葉を聞いて確かにと思ってしまう。済まないヴァイセ。



「そんなことはないと思うぞ。」



 溜息をついている。



「はあ、そういうことにしておきます。」



 よし、これで切り抜けられた。



「そうだ、幹部たちはもう集まっているのか?」



「ええ、他の者に伝えるようにいっていましたので、

すでに集まっていると思います。

ただ、あの方たちはマイペースなところもありますので、絶対とは言えません。」



 癖もの揃いだからな、当たり前だ。



「まあ、集まっていなかったら、それはそれでいい。

別に問題はない。来ていなかったらあとで伝えておいてくれ。」



「承知しました。」





 玉座の前に着いた。扉を開けると、珍しく全員集まっていた。

 そして私が来たのがわかると、全員片膝を付いた。玉座に目を据えて言う。



「珍しいな。お前たちが全員揃っているなんて。」



 幹部の中の一人が言う。いつもこないやつが。



「本当ですね。こんな珍しいことがあるんですね。」



 こいつを除いてここにいる全員が思っただろう。



「お前が言うな‼」と。



 私は椅子に座る。隣にはヴァイセが立っている。





「さあ、始めよう。侵入者を排除するための会議を。」

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