第36話 帰国


 そんな日常を過ごし、僕たちはモーヴェ王国を出ることになった。

 クラフトを除いて。



「俺はここに残ってツァール様の元で働く。

 モルカとレイスにあったら宜しく伝えてくれ。

 こっちで元気にやっていると。」



「うん。わかったよ。寂しくなるな。」



「あらそう?私は暑苦しくなくなって清々しているわ。」



 シェーンは振り返っていった。

 そんなことを言っているシェーンの目には涙が溜まっていた。



「ん?シェーン様、何か言いましたか?」



「何でもないわよ。」



「みんな、レーグル王国の復興に尽力してくれてありがとう。

 助かった。まだ、復興するまで時間がかかると思うが、

 軌道に乗ってきたし、あとはこっちでどうにかするよ。


 国民も率先して動いてくれるようになったしね。

 みんながいなくなるのはさびしいけど、あっちの様子も気になるし、

 モーヴェ王国のことはよろしく頼むよ。ディグニ。」



「はい。ご期待に応えられるように努力します。」



 なんだか、言い方が固くなった。



「あ、ああ。シェーンもビス君もよろしくな。」



「うん。」「ええ。」



「じゃあ、そろそろ行くか。それでは、お元気で。ツァール様。クラフトさん。」



 僕はお辞儀をして、その場をあとにした。






 僕たちは城門を出た。セフォンたちが待っていた。



「セフォン‼久しぶり。一緒に帰ろう。」



「ビス、どうする?一人で乗るか?」



「いいの?だったらセフォンに乗りたい。」



「ああ、いいぞ。」



「シェーン様は?」



「わたしも一人で大丈夫よ。ね、アイブス。」



「そう、ですか。では、私はクラフトさんが乗ってきた馬に乗りますね。」



 ディグニは寂しそうな顔をしていた。





 僕たちは来た道と同じ道を通ってモーヴェ王国に向かった。

 しかし、着た時とは様子が変わっている。

 異質な生物が闊歩しているのだ。そして襲ってくる。



「相手をしている暇はない。二人ともしっかり着いてこい。」



 僕とシェーンはディグニを必死に追った。



「は、はやい。頑張って。セフォン‼」



 セフォンは鼻を鳴らし、スピードを上げる。







 プロウバの森に着いた。やっと、異質な生物たちを撒くことができた。

 ただ、おかしいことに逆にプロウバの森だけ異質な生物はいなかった。

 それに、じとっとまとわりつく感覚が僕を包み込む。不気味で仕方ない。



 シェーンは知識欲を必死に抑えている。

 シェーンも何か違和感を覚えたんだろう。

 それに気づいたのかディグニが言った。



「ここで少し休憩しましょう。

 目の見える範囲であれば自由に行動していいですよ。」



「で、でも急がないと。」



「ここを抜けたらおそらく休憩する隙がないと思います。

 ですので、ここで一休みしましょう。そうしないと体が持ちませんよ。」



「わかったわ。」



 態度には出さないがシェーンはワクワクしている。

 そしてそこら辺を探索している。



「ビスもいいぞ。時間が来たら、呼ぶから。」



「うん。」







「そろそろ行くぞ。」



 その声に僕とシェーンはディグニの元に行く。



 シェーンは両手いっぱいにいろいろなものを持っていた。

 シェーンは僕の視線に気づく。



「な、何よ。これは必要なことなの。私がやろうとしていることに。」



 シェーンは顔を赤くしていた。



「別に。何も思ってないよ。」



「何してるんだ。行くぞ。」



 僕たちはプロウバの森を進んだ。







 ディグニの言う通り、プロウバの森を出たら、休む暇がなかった。

 大勢の異質な生物がいてレーグル王国に向かっていた時よりも時間がかかった。



「何でこんなにいるのよ。」



「シェーン、そんなに大きい声だしたら気付かれるよ。」



「わかってるわよ。」



「二人とも静かに。」



 どうやら僕もうるさかったらしい。



 進んで、隠れて、進んで、その繰り返しだった。

 モーヴェ王国に着いたのは太陽が少し顔を出している時だった。

 不思議なことに回りには魔物がいなくなっていた。



「おーい。俺だ。」



 橋が降りてくる。進むと見覚えのある人が立っていた。



「戻ってきたか。ディグニ。ビス。シェーン様も。」



 ハウだ。ただ、雰囲気が少し違っていた。それに疲れているような。



「ああ、いろいろ話したいが、王様に早く報告しなくちゃいけないんだよ。」



「そうか、そうだよな。」



 ディグニが急いでいる。



「モーヴェ王国は変わりないか?」



「自分の目で確かめな。」



 なんだか含みのある言い方。嫌な予感がする。




 城門をくぐり抜けるとそこには








 ・・・・荒れ果てたモーヴェ王国の姿があった。










 ――――――――――――――




 薄暗い部屋の中。誰かが話をしている。

 一人は椅子に座り、一人は片膝立ちをしていた。



「~~~~。報告は以上です。」



「そうか。わかった。」



「想像以上にひどい状況になっています。」



「あいつはちょっとやりすぎるところがあるからな。

 ただ、許容の範囲内だ。いっそもっと暴れてしまっても構わないのだがな。」



「それは・・・」



「冗談だよ。そんな真面目に捉えるな。」



「申し訳ありません。」



「・・・謝ることでもないのだが。はあ、まあいい、引き続き監視の程頼むぞ。」



「はっ。仰せのままに。」



 一人がシュッと音を出して消えた。



「はあ、仕事はよくできる奴なんだがな。肩に力が入りすぎだ。あいつは。」



 溜息をつき、遠くを眺めている。



「着々に進んでいる。もう少しだ。もう少しで完成する。理想の世界が。」



 その老人の両手には力が籠っていた。





 そこに新たな男性が現れる。



「今、戻りました。」



「ああ、戻ったか。記憶は戻ったのだな。」



「はい。最近ですが。」



「では、お前の役割はわかるな。」



「ええ、役割は完璧にこなしますよ。それしか私にはできないですから。」



 男性は淡々と答える。



「ああ、頼むぞ。それとここまでの道中疲れただろう。

 お前の部屋も残してある。そこで休むといい。」



「お心遣い感謝します。お言葉の通りにさせていただきます。では。」



 男性は身を翻し、部屋を去っていく。



「済まないな。俺の理想に巻き込んで。

 ただ、もう後戻りはできないのだ。


 突き進むしかない。それに時間がもうない。

 早く理想の世界を見てみたいものだな。」






 そう老人は呟いて自室に戻っていった。



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