第2部

第1章 "変化"と

第37話 真相


あれから、五年の月日が流れた。

モーヴェ王国は復興した。いや、復興していると言った方が正しいか。

まだ、争いの後は残っている。町の被害がそれほど大きかったのだ。

だが、国民への被害は最小限に抑えられていた。



俺たちがモーヴェ王国を出た後ある放送が流れたらしい。



”モーヴェ王国に危機が迫っています。国民の皆様城へ避難を開始してください。”



そんな放送が国中に響き渡って、国民は避難を開始したそうだ。





どうやら、城には国民全員を収容できる地下施設と備蓄が蓄えられていたらしい。

用心深いモーヴェ王のやることは違う。

というよりここまで用意周到だと畏怖しかない。



モーヴェ王の判断により町の人々の被害は抑えられた。

ただ、傭兵たちの被害がひどかった。




魔物、そして他種族が押し寄せたらしい。

傭兵は死に物狂いで戦い、善戦虚しく被害をゼロに抑えることは出来なかった。


当然といえば当然ともいえる。

武器を持っているにしても近接の人間が魔法を使う遠隔の他種族と争えば

有利な方がどちらかなんて火を見るよりも明らかだ。



それでも少数の被害で防げたのは奇跡に近いと言っていい。

その功績の一端はルトさんにあるみたいだった。

実際に戦うところを見ていないからわからないのだが、

一人で1000以上の敵を倒したらしい。やはり只者ではなかった。

ルトさんが傭兵ではなく使用人をやっているのが不思議なくらいだ。



おそらくこの襲撃はタドが手引きしたものなのだろう。

憶測でしかないが。ここで疑問が残る。

なぜ襲撃があることを王たちは知ることができたのか。



帰ってきてすぐ聞いても教えてくれなかった。

教えてくれたのは2年後のことだった。

ルトさんを問い詰めたら案外あっさりと教えてくれた。




「僕はもう子どもじゃないんだ。そろそろ教えてくれないか。ルトさん。」



「私から見たらまだまだ子どもですよ。ただ、そうですね。

もういいでしょう、お話します。あなたたちがレーグル王国に向かう一週間前、

魔物たちの足跡がモーヴェ王国近くで見つかったのです。


そして日が経つに連れ足跡が増えていったのです。

見つけてくれと言わんばかりに。明らかにおかしい現象でした。

敵は遊んでいたのでしょう。私たちに決断を迫り、どんな決断を下すのか。

非常に不愉快でした。」



この時初めてルトさんの顔が歪むのを見た。

それほど、感情を抉られたのであろう。



「そして王は決断しました。

予定通り、あなたたちをレーグル王国に向かわせると。

苦渋の決断でしたよ。ただ、王の決断は正しかった。


もし、レーグル王国にあなたたちを向かわせなければ、

レーグル王国は乗っ取られていたでしょう。

それに国民全員がしんでいたのでしょうね。

最低限の被害に抑えた王の采配に感謝です。」



そういうルトさんの声は少し震えていたように感じた。本当に微細な変化。

傾聴していなければ気付かないほどの震え。

ルトさんにも思うところはあるのだろう。



「話は以上です。まだ、仕事が残っていますのでこれで失礼いたします。」


そういってルトさんは去っていった。




ルトさんは言ってはいなかったけど、

おそらくディグニ、クラフト、そしてペルはそのことを知っていたのだろう。

レーグル王国に行く途中プロウバの森に入る前にクラフトが言っていた言葉。

あれは知らないと出てこない言葉だろうと今になって思う。



それに対するディグニとペルそしてシェーンの反応。

ディグニとペルはそれ以前から知っていたと思われる。

まあ、ディグニが知ったのは王国に出てからだろうけど。


シェーンは具体的には知らないにしろ、

何が起ころうとしているのかは理解したのだ。

俺はそこまで頭は回らなかったというのに。



悔しい。そう思ってしまう。

知っていたら何ができたかと聞かれたら、間髪入れず答えられる。


何もできなかったと。それでも僕は話して欲しかったと思ってしまう。




そんなにも俺は無力で子どもだったのだと思い知らされる。

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