第4話 ツァール王子

 ビスたちが玉座から出ていく。

 嵐が去ったような静けさに包まれる。それも一瞬であった。



「娘がすまないな。それより、随分仲が良さそうだったな。」



 父親の面が前面に出てくる。



「い、いえ、そんなことはありません。」



「そうか、その割には親しげに見えたが。

 私には目もくれずお前の方に向かっていったではないか。」



 王様がいじけている。シェーンが絡むといつもこんな感じだ。

 シェーンにも気をつけてほしいと言ってはいるが・・・。

 知りたいことがあると一直線だからな。あのお嬢様は。



「シェーン様は最近プロウバの森について興味があったみたいで。

 行く前にプロウバの森に行くと話したら、一つ頼みごとをされました。

 そのことを早くお知りになりたかったのでしょう。」



「い、いや、それだけではないと思うが・・・複雑な気分だ。」



 そういわれるが、なんのことだかさっぱりわからない。




 クラフトさんがやってくる。


「シェーン様はいつもお元気ですな。」





「お転婆で困ったものだよ。あんなことがあって昔よりは

 大人しくなったんだが。知識欲が爆発したみたいで本をねだってくる。

 しまいには外に出て実際に見て見たいと言ってくる。

 今はなんとか抑え込んでいるがいつか勝手に城を抜け出して

 行くのではないかとヒヤヒヤしているよ。」



 眉を八の字にしているが、目が活き活きしている。



「それはそうと、クラフトよ。ツァールはうまくやっていたか。」



 父親から一瞬にして王様に戻る。

 ツァール様はこの国の第一王子、モーヴェ王のご子息だ。



 レーグル王国との戦争が終わったあと、

 統治者としてツァール王子が送られたのだ。

 一部では島流しでは?という声が聞こえてくる。


 というのも、モーヴェ王はシェーン様を時期国王にしようとしていると

 まことしやかに噂されているからだ。それをよく思わない連中もいるだろう。


 シェーン様の件についてはあながち間違いではないと思うが、

 真相は王様しかわからない。



「はい。ツァール様はお元気そうで、

 私が思う限りではうまくやられているかと。暴動は起きていませんし。

 ツァール様からご心配なさらないでください。とのことでした。

 ツァール様はお優しい方ですから国民からも支持を受けましょう。」



「口当たりのよい言葉を並べるな。お前が思ったことを正直に答えよ。」



「はっ。申し訳ありません。正直に申します。

 ツァール様はお優しすぎかと。周りの意見を取り入れようとしすぎです。

 今はそれなりにうまくやっていますが、その内立ち行かなくなると思います。」



「ふむ。そうであったか。

 まあ、予想通りではあるが・・・。さてどうしたものか。」



「・・・それともう一つお伝えしたいことがあります。」

 となにか言いづらそうにクラフトさんが切り出す。



「ツァール王子からは、こちらで対処するから、

 お父様には黙っていてくれ、と口止めされていたのですが、




 レーグル王国王子レンコル様が一部の傭兵とともに行方をくらました。」



「っ!」



 驚きすぎて声がでない。

 ただ、王様の方は、驚きの表情ではなく納得したような表情をしていた。



「はあ、あいつには困ったものだな。

 大なり小なりツァールが関わっているだろう。

 大方部下のレンコル王子を処刑する動きに対応できず、時間稼ぎのため逃がした、そんなところか。行き過ぎた優しさは誰のためにもならないというのに。

 それがなければ充分やれるだけの力はあるはずなんだがな。」



 一瞬父親の顔が現れる。



「クラフト。よく申してくれた。点と点がつながりそうだ。

 実はな。王国の外で不審な者がいる、と連絡があり、一人の男を捉えたのだ。

 ただ、そのものは何もしゃべらなくてな。困っていたのだ。」



 王様は俺を一瞥する。ああ、そういうことかと、王様の意図を理解する。



「ただ、今日はもう遅い。ディグニよ。この件は明日にしよう。

 今日はお開きだ。ビスも待っているだろう。」



「はい。畏まりました。」



 はあ、そんなことは絶対にないとわかりつつも、

 明日にならなければいいと思ってしまう。





「ディグニよ。日も暮れてきた今夜は城に泊まって行くといい。

 シェーンも聞きたいことがあるらしいし、それに明日のこともある。」



「有難いお誘いですが、今日は約束があります。

 申し訳ありませんが、遠慮させていただきます。」



 それに今ビスをあの方に合わせたくない。

 勘でしかないが嫌な予感がする。それに気持ちを落ち着けたい。



「そうか。それは残念だ。シェーンが悲しむだろうが仕方がない。

 次の機会を楽しみにするように言い聞かせておくから心配するな。」



 まだ、根に持っているようだ。「はははは」苦笑いしか出てこない。



「よろしくお願いいたします。」



「うむ。もう下がってよいぞ。」



 俺とクラフトさんは玉座から出る。

 ビスたちはどこへ行ったのだろう。早く探して街に戻らなくては。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る