怪異や伝奇を題材とした、斬新な切り口の推理物語

『推理もの』と聞けば、類い稀なる推理力を持った「探偵役」が、「助手役」を翻弄しつつ、難事件を華麗に解決する物語を想像するだろう。だが本作はそうではない。ミステリーとしては珍しい、探偵役の成長譚なのだ。

本作の探偵役である『稲生 令(いのう れい)』は、やや口は悪いが推理力そのものは持ち合わせているし、一般的に比べても高い。だが『未熟』なのである。

物語は、怪異によるものと思われる事件を、令と語り部である柏 李来(かしわ りく)が紐解くものだ。相対するは、一癖も二癖もある『自称・人外』たち。

物語の裏にはダークファンタジーな世界がありつつも、展開される事件そのものはしっかりとしたミステリーとなっていて、怪異ではなく人間が起こした普通の事件であることを証明するものになっている。

主人公の令は、『瞬間記憶能力』と『正確な体内時計』という長所を持ち合わせておりながら、『早とちり』で『先走る』といった短所があり、この短所が原因となり、本作でのいわゆる、ホームズで言うモリアーティのポジションにあたる人物、自称・吸血鬼の『秋葉朱華』に目をつけられてしまう。
朱華は令よりも頭が切れ、他の登場人物よりも遥かに癖の強い人物だ。

果たして本当に朱華は吸血鬼なのか。令と李来は、時に喧嘩し時に協力しながら、曰くの多い『青純女学院』で起きる事件を解決していく。

探偵役の成長譚という珍しい構成で、しかも伝奇や怪異が絡んでくる。ドラマの『TRICK』や『SPEC』が好きな人には刺さるものがあると思う。