第17話 気性難
競技会から帰って来ると土砂降りの雨が降り出した。
満身創痍となったわりに元気な様子のシェイクテイルを獣舎に戻し、怪我の状態を確認して治療を済ませる。医者を呼ぶほどの怪我がなかったのは不幸中の幸いに違いなかった。
競技に使用した道具を片付け、細々とした仕事をエミリアに請け負って貰い、一人で考え事をするために足早に自室に籠る。
きっと原因がある。
ゴルトンシュトームに、ゴルトンディアマント程の大器はない。
怪我が軽かったから挑戦した二戦目の相手は強くなかった。しかしそれでも、タオルを投じるしかなかった。
二戦目でようやく、シェイクテイルは決して攻撃をしないだろうということに確信して、残りの二戦は棄権。
シェイクテイルは、なぜ攻撃指示だけ聞かなかった?
競争心を持たせるための模擬戦は、取材に来たハインツさんに非常識と言われるほど回数をこなした。
優れた理解力を持つシェイクテイルは若年ながら、成熟期のアドマイヤブラウンに匹敵するほどの高い戦略性を身に付けるに至っている。
なのにまるで、攻撃しないのが正解と確信しているかのように、シェイクテイルは攻撃の指示だけを無視し続けた。
初めての競技会で頭に血が上って、指示が聞こえなかったか?いや、防御や回避、位置取りなどの指示は聞いていたし、そもそも我を忘れるほど興奮するような性分でもない。シェイクテイルは何よりも俺の、人の声をよく聞くから、シェイクテイルなりの判断があったように感じてならない。
俺を背中に乗せるのを嫌がるような気性難の気はあったけれど、調教でも模擬戦でも指示を聞かないということは一度もなかった。
エミリアや他のトレーナーが
シェイクテイルは俺が背中に乗ると、俺の顔が見えないから嫌であるらしいと気付いたのはエミリアだった。
シェイクテイルの気性難は、気まぐれではなく明確な原因があるのは間違いないが、どんな理由であれば、攻撃だけしない、という行動に結びつくのかが分からない。
単純に調教回数が少ないから、教えたことが正しく身に付いていないという可能性は無いとは言えない。
初めて大勢の観客に囲まれて試合をしたということも、突然気性難になってしまう原因の一つとしては良くある。
確信を得るには到底至らないものの、思いつくことは、このぐらい。
明確に、これが原因。と判明しないことには安心などできようもないが、何も対策をせずに時間を無為に過ごすことこそ一番の愚策に違いない。
まずは、実戦形式の調教を集中的に行い、可能な限り試合のパターン化と経験を積ませる。
大勢の人に囲まれる状況に慣れさせること、この二つから取り組んでいく。
シェイクテイルは、攻撃指示だけを無視することがある。と判明したことは望ましいことではなかったけれども、問題点があると判明したこと自体は八冠に向けての前進に違いないと信じる。
一応の方針が定まって、とりあえずの息を吐いた。
強張った首と肩を鳴らしながら窓から外を見ると、にわか雨こそ止んだ様子だったけれども、空には依然として厚い雲がかかっていて、どことなく重たい気持ちのまま、これからの予定を考え始めざるを得なかった。
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