第4話 ヒーローは瞬く間に

 思えばアドマイヤブラウンは、私の人生に大きな影響を与えた騎獣となった。

 この街フルスファで行われた彼の試合のほとんどは競技場まで観戦に行ったし、他の街で開催される試合は新聞記事をかき集めて、生まれて初めて自分だけのスクラップブックを作った。

 彼らが強敵に立ち向かう姿に、勇気づけられた気がした。

 最終大会成績、二十六戦、十六勝。

 八大大会の全てに挑戦し、若き相棒と共に二冠を達成した偉大な、そして流星のような挑戦者。

 ライバル、ゴルトンディアマント以外にはほとんど負けなかった、不運の名狼。

 世間は競技会史上二頭目となる六冠を達成したゴルトンディアマントをもてはやしたが、私にとってのヒーローは、アドマイヤブラウンとその相棒ジルバ・ヴァーグナー以外に居なかった。

 彼らは、どんな時でも全力で戦うことを選んだ。

 体格の不利がなんだ。

 種族の不利がなんだ。

 外野からの評価がなんだ。

 それらは挑戦しない理由にはならないと言わんばかりに、彼らは常に牙をむき出しにして、圧倒的な強者に挑み続けた。

 ただの一度だって、諦めることをしなかった。

 彼らのその姿が、私の理想とする私自身の姿に見えて仕方がなかった。

 ありがとう。偉大な挑戦者たち。

 娘が、自身の夢と目標とを、はっきり自覚することができたのは、まさにあなたたちのお陰だ。

 私が、自分自身ではどうにもできない不運な出来事にくさりかけていた時、挑戦し続けるという方法があると気付かせてくれたのも、あなたたちだった。

 さようならアドマイヤブラウン。私は君たちが再び並んで歩ける日を、心から願っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る