第22話 再び定食屋へ

 私と京子は、青島さん宅を後にした。そして尾崎刑事に電話したがつながらなかった。係長の居場所を突きとめるために、係長が消えたあの定食屋、北の海食堂へ行くことにした。


 北の海食堂の入口には、「臨時休業」の看板がかかっていた。京子はドアのすき間から中を覗いていた。

「小春、誰もいないわよー」

 仕方がないので私たちは網走署へ行くことにした。食堂から離れて数分歩いていると、京子が後ろを振り返った。

「あれ? 食堂の駐車場に車が止まったー」

 数十メートル離れた所からよく見てみると、尾崎刑事が車から降りてきた。私たちは咄嗟に交差点の脇に隠れた。尾崎刑事は食堂の入口の前で電話をしていた。そして、店の中へと入っていった。私と京子は店へと走った。店の前まで来て、ドアを開けた。

「尾崎さん!」

 中には尾崎刑事と店主がいた。二人とも驚いていた。

「……すごいな、本当にここにたどり着くなんて……」

 尾崎刑事は目を丸くしてつぶやいた。

「それは、こっちのセリフよー、尾崎さんー」

「……香崎さんと磯田さん、お二人は、私が来るのを見張ってたんですか?」

「いえ、偶然です、ここへ来たけど、臨時休業だったので、仕方なく帰ってたら、たまたま、車が店の駐車場に止まったので、隠れて見てたんです。そしたら、尾崎さんが車から降りて、店の中へ入ったので」

「そうですか。偶然でも、それを手繰り寄せたのはお二人の力ですよ」

「そんなことよりさー、どうして電話に出なかったんですかー? こそこそしてこの店の入って行くしさー」

「お二人なら、事件の真相にたどり着いたのかもって思って、電話には出ませんでした」

「どうしてよー?」

「尾崎さん、私と京子は、事件記録を読んだ後、青島さんに会いに行きました。そこで、相田さんにも会いました。21年前、千島荒江らこうさんの事件で実際に何が起こったのか、相田さんに話してもらいました」

「さすがですね。村田さんが、お二人のことをとても優秀だと言ってました。私は初め、半信半疑だったんですけどね。お二人の優秀さを見抜いた村田さんもさすがだなあ」

「尾崎さんは何をするつもりでここへ来たんですか?」

「尾崎さーん、係長はどこですかー?」

 京子の方を、尾崎さんはチラッと見て、それから店主の顔を見て、何か考えているようだった。

「尾崎さん、係長がどこにいるのか知ってますね?」

「係長を出してよー!」

 その時、客用トイレで水が流れる音がした。私と京子はトイレの方を向いた。そして、勢いよくトイレの戸が開いて、なんと、係長が出てきたのだ。ものすごくカッコ悪い登場の仕方だった。

「係長!!!」

「そんなに俺に会いたかったのか、磯田! モテる男はつらいぜ!」

「イヤーー!」

 京子は間髪入れずに拒絶した、悲鳴のような声を上げながら。よく見ると、係長のズボンのファスナーが開いていて、そこから豪快にシャツが出ていた。

「係長ー、それー、わざとやってるんなら、セクハラ相談窓口に通報ですねー」

 京子が指さして、係長はやっと気づいたようだった。

「いや、わざとじゃない。俺としたことが、こんなミスを……」

 係長は身だしなみを整えて、カッコつけながら私と京子を見た。京子は呆れていた。尾崎刑事は笑いをこらえていた。店主も笑いをこらえていた。私も同じく、笑いをこらえていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る