第21話 続・予期せぬ展開

「相田さん、村田係長とは以前から知り合いだったんですね?」

「はい……昨年に初めてお会いしました……」

「どのようにして?」

「私が話すわ、理恵ちゃん」

 青島さんが割って入ってきた。

「村田君はね、毎年7月に、お墓参りのために網走に来てるのよ。私は何年か前にばったり出くわしてね、その時からたまに連絡を取り合うようになったの。昨年、理恵ちゃんが、千島荒江らこうさんの事件のことで私に話があるって言ってきてね。当時の事件のことを聞いたのよ。それで、村田君に相談してみたのよ、村田君、警察官になってたしねぇ。村田君は、理恵ちゃんのことを、悪くなんて全く思ってなかったのよ。むしろ、よく話してくれるようになったって、すごく喜んでたわ」

「へーー、そうなのーー」

 私は思わず目を細めて不思議そうな顔で京子を見てしまった。京子はバツの悪そうな顔をしていた。

「……私は、村田さんに、桜井さんが千島荒江らこうさんを海に突き落とした犯人だと伝えました。それから、漁港のすぐ近くで、雑貨店を始めたんです。桜井さんを監視するためです」

「理恵ちゃんはね、ずっと自分が悪いんだって思ってたからね。わざわざお店まで出して、桜井のことを見張ってたのよ」

「なるほどー、それで、あんな辺鄙な場所にー」

「……先週、村田さんから連絡があったんです。村田さんが動画サイトで『萌えろ、オホーツク・フィッシング』っていう動画を見たときに、お父さんのラッコのコートとよく似たコートを着た男が出ているのを見つけたって言ってました。その男の人の腕に、ラッコの刺青があるって。私、桜井さんの腕にラッコの刺青が入っているのを見たことがあるんです。桜井さんは私のことを怪しんでたので、私を怖がらせるために、何度も店に来てましたから……。私はその刺青のことを村田さんに伝えました。それで、村田さんは休暇を取って、網走に来ることになった、っていうことです」

「へー、なるほどー」

「……私は偶然、桜井さんの部下がラッコのコートのことを話しているのを聞いたんです。それで、有名な毛皮のコレクターの西網走漁業組合の佐々岡さんに話を聞きに行きました。たぶん、佐々岡さんは、桜井さんに毛皮のことを尋ねたんだと思います。すぐに、桜井さんと部下の人たちが、私の店に嫌がらせに来ました。それから、佐々岡さんがあんなことになってしまって……。現場には村田さんの名刺が落ちてたって、そんなの、桜井さんがわざとやったに決まってます! ……私は元々桜井さんから目をつけられてたこともあって、身に危険を感じるようになったので、尾崎さんに相談しました。そうしたら、青島先生にも一芝居打ってもらおうってことになって。誘拐ってことで警察が発表すると、私の身が安全になるって……」

「そういうことー」

「そうだったんですか。あの時、走り去った白い車、相田さんは当然乗っていなかった、で、あの車、警察車両ですよね、しかも尾崎さんが運転していたんじゃないですか、青島さん?」

「ええ、そうです、さすが優秀な刑事さんね」

「あー、なんだー。そういえば、ああいう車、T県警にもたくさんあるわよねー」

「となると、係長はあの時、北の海食堂に入った後にどこに行ったのか……」

「村田君がどこにいるのかは、私たちもわからないのよ」

 青島さんは申し訳なさそうに言った。

「……すみませんでした。私がちゃんと警察に証言していればこんなことには……うっうっ……」

「あー、泣くことないってばー」

「……うっうっ、村田さんを助けてあげて下さい。ちゃんとした証拠がないから、警察にはできないやり方で桜井さんを追い詰めようとしてるんです……うっうっ」

「こんな美人を泣かせるなんてー、係長の野郎ー!」

「いや、京子、それで係長に怒りを向けるのはどうかと思うけど……」

 私は、京子の天然っぷりに少し恥ずかしい思いをした。

 相田さんが無事で正直、私はホッとした。そして、21年前の事件の真相がわかって、頭の中でこんがらがった糸が解けて少しスッキリした。しかし、確実に桜井さんが犯人だという決め手はないという状況だった。しかも、係長の行方はわからないままだった。

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