第17話 再び網走署へ

 私たちは再び網走署へ来た。署内ではまだ北網走漁業組合会長の桜井さんが受付で文句を言っていた。この人は仕事しないで何をしているのか、暇なのだろうかと正直思った。

 私たちは刑事課へ行き、係長の実家を訪れたことを伝えて、尾崎刑事を問い詰めた。

「尾崎さん、村田係長の父親に殺人の容疑がかかっていたという件に関する事件記録を見せてください!」

「……わかりました。こちらへどうぞ」

 私たちは資料保管庫へ通された。そこで、事件の記録に目を通した。


 21年前、漁港近くで男性が殺害された。名前は牧田明、46歳の漁師。検視結果では、刃物で胸を刺されて即死ということ。事件現場には、千島荒江らこうさんの物と思われる包丁が落ちていた。その包丁が切り口と一致するということで、千島さんを重要参考人として捜査が始まった。しかし、動機がはっきりせず、他に証拠もないため、一旦釈放された。その翌日に、千島さんは漁港近くの海に浮かんで死んでいる状態で発見された。酒に酔って海に転落した可能性が高いと判断され、事故だとして処理された。その後、牧田明さん殺害事件は迷宮入りとなった。

 私と京子はそこで思わず、「あっ」と声を出してしまった。千島荒江らこうさんの件での目撃者欄に、知っている名前が書かれていたからだ。その目撃者は相田理恵さんだった。当時小学生だった相田さんが、夜、漁港で何かが海に落ちる音を聞いて、毛皮のコートを着た男が走り去るのを目撃したということだった。翌朝、千島さんが遺体で発見された。千島さんはその前夜、ラッコの毛皮のコートを着て食堂で夕食を取った。しかし、遺体で発見された時にはコートを着ていなかった。海を探したがコートは見つからなかった。それゆえ、相田さんが目撃した男がコートを盗んだと考えられた。だがしかし、相田さんの供述は二転三転し、あいまいで不審な点が多かった。千島さんが食堂でかなり酒を飲んでいたという数名の客による証言があったため、千島さんは酔って海に転落したとして、警察は事故と判断した。牧田明さんを殺したことに悩んで自殺したのではないかという線も考えられたそうだが、最終的に事故だと断定された。


「京子、どう思う?」

「えっ? どうって……なんかー、いろんなことが繋がりそうで、でもそんなことない感じかなー」

「私もそんな感じかな。自分の義父である千島荒江らこうさんが殺人の容疑をかけられたまま亡くなり、係長は失意の中、網走を出た。その後、義父にかけられた容疑を晴らすために、キャリア組として警察官になった。網走に戻って、打ち切られた捜査を再開したかった。だから、網走勤務を願った。しかし、網走を管轄する北見方面本部ではなくて、北海道警に行くことになった」

「うん、十分あり得る話ねー。だけど、北海道警では、網走署の捜査に口出しできなかったってことなんでしょうねー」

「……で、なぜか今、係長は網走に来て、それから佐々岡さんが殺されたり、相田さんがさらわれたりした」

「小春、こう考えられない? 千島さんが殺されるのを目撃した相田さんが、あいまいな証言をしたんでしょ。もし、ちゃんと証言していれば、千島さんを殺した犯人を逮捕できたかもしれない。それで、係長は網走に来て、相田さんに会って確かめた。相田さんは認めたんじゃない? 自分がいい加減な証言をしたってことを。だから、係長は復讐のために相田さんを誘拐した」

「京子、それはいくら何でも……」

「えーーー。刑事なんだから、私情を挟まずに可能性のあることを考えなきゃさあー」

「確かにそうだけど……。だったら、佐々岡さんは? なぜ殺されたの?」

「係長がやったのよー」

「……京子……、なんか言い方ひどくない?」

「だってー、係長が網走に来てから、起こったのよー。しかもー、係長の不在時にー」

「うーん、確かにそうなのよね。でも……うーん。漁師の牧田さんが殺されたことは?」

「んー、係長の実家に案内してくれたおばさんはさぁ、北網走漁業組合の桜井って人が犯人じゃないかって言ってたよねー。そういえば、その桜井って人、毛皮のコート着てなかったっけ?」

「そういえば、そうね。今さっきも毛皮のコートを着てたわよね。千島荒江らこうさんの名前は、ラッコから取られた名前で、係長はラッコの着ぐるみを着ていた。ねえ、京子、殺された佐々岡さんって、毛皮コレクターだってワイドショーで放送されてたわよね?」

「うん、確かそうね。毛皮かー……」

「なんか、いろいろと接点が見えてきたわね……」

 いろんなことが繋がりそうで繋がらないというもどかしさを、私は感じていた。夕方なので、私たちはホテルへ戻ることにした。

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