第14話 定食屋へ

 私たちは二日前に来た食堂、北の海へやって来た。ちょうどお昼時で、場所も青島さん宅に近かったからだ。店に入ると、店主が私たちを見て少し驚いた感じだった。客は10名ほどいた。私たちはテーブル席に着いた。すると、すぐに他の客の会話が聞こえてきた。


「千島に殺人の容疑がかかりそうなんだって?」

「みたいだな。親父さんの敵討ちに戻って来たのかなと思ってたけど……」

「いや、そんなのわかんねえぞ。千島自身が行方不明なんだろ?」

「ニュースとかではやってねえけどな。尾崎がいろいろと裏で手をまわしてるんじゃねえかとか、みんな言ってるぞ」

「殺人事件のことかよ? みんな言ってるのかよ?」

「おうよ、千島が自分の名刺を手あたり次第に配ってよ、いろいろと昔のこと聞き回ってんだよ。だから、みんな、千島がやったんじゃねえかって言ってるぞ」

「名刺なら、俺ももらったよ。これだろ? 村田に名前が変わってるけどよ」

「大将、ご飯のお代わりいいですか?」


 私は始め、客たちが何について話しているのかわからずに困惑していた。佐々岡さんが殺された事件のことに言及しているとしか考えられなかったにもかかわらずだ。しかし、村田という名前と尾崎という名前が出てきて、私たちはじっとしていられなかった。

「すみません、お話を聞かせてもらえませんか?」

 私と京子は手警察手帳を客たちに見せた。そして私たちはテーブルに置かれたその名刺を見た。確かに、それはいつも係長が持ち歩いている名刺だった。

「詳しく聞かせてもらえますか?」

 私たちはその客から、係長がかつて千島という名字だったことを聞いた。係長は数日前に網走に来てから、警察の名刺を配って情報収集をしていたという。尾崎刑事は、中学と高校時代の係長の後輩だった。係長の父親のことについては、その客の一人は口を噤み、もう一人ははぐらかしたようだった。

「係長は、千島圭吾っていう名前だった……」

「小春ー、どうりでアルバムを見ても名前が見つからなかったはずよー」

 ご飯のお代わりを運んできた店主の表情は曇っていた。私たちは店主にも話を聞いた。

「あなた、村田係長のことをご存知ですよね?」

「……いや、知らんね」

「前に、この店に係長が入るのを見たのに、私たちが来たら係長はいなかった。何か隠してるんじゃないですか?」

「いや、何も知らんね」

「怪しいー。知ってるんでしょー!」

「知らんと言ってるだろ」

 店主は知らないの一点張りだった。私たちは仕方なく店から出た。もう一度、北海高校へ行こうとも考えたが、とりあえずは尾崎刑事に事情を説明してもらうために網走署へ向かうことにした。

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