第6話 相田に会いに行く
私と京子は、海豹ホテル1階のロビーでソファーに座っていた。私は、係長が前夜にホテルから出て行ったことを、京子に伝えた。しかし京子は特に驚きもしなかった。
ロビーのテレビでワードショー番組が流れていた。殺害された佐々岡さんのことについて面白おかしくコメンテーターたちが語っていた。その中で、佐々岡さんがマニアの間で有名な毛皮コレクターだったということが、すごく気になった。そして、画面に映し出される漁港の映像を見て、相田さんのことも気になった。
「ねえ、京子。相田さんって、漁港のすぐ近くで雑貨店をやってるんだよね。事件現場の近くか」
「当たってみる?」
私たちは相田さんに会うことにした。
地図アプリを頼りに、すぐに相田さんが経営する雑貨店を発見できた。こじんまりとした田舎の土産店のような店で、客は誰もいなかった。観光客の少ない場所にあるのが不思議だと感じた。
「相田さん、事件のことはすでにご存じだと思いますが、その事件で、係長に疑いがかかっています。しばらく網走署の留置所に勾留されることになりました」
「……あ……そうなんですか……」
相田さんは絶句した。
「あー、のど渇いたー。ねえ小春、喫茶店行かない? 昨日行ったとこでいいからさ」
「ちょっと、京子、こんな時に。みっともないんだって」
「クリームソーダ、飲みたいーーーー」
「……あっ、場所変えましょうか。気分転換になるし」
京子が駄々をこねたので、私はすごく恥ずかしかった。相田さんが場所を変えようと言ってくれた。
私たちは再び「喫茶 流氷」へ行った。
店員が水をテーブルに持ってきた。京子はいの一番にクリームソーダを注文した。私はメニューを見ていた。相田さんはコーヒーを注文した。
「香崎さん? 何になさいます?」
相田さんは、メニューに見入っていた私に尋ねた。
「あっ、そうだな、昨日は紅茶だったし、じゃあ、ミルクティーをお願いします」
私はミルクティーを注文した。この時、私の中で違和感が蘇ってきた。前日に来た時、係長がトイレに行っている間に、相田さんは係長の分もコーヒーを注文した。なぜ、コーヒーだったのか。コーヒー以外の選択肢もあったのに。係長がトイレから戻ってくるのを待つこともできたのに。さらには、係長が何を飲むのかを、私か京子に訊くこともできたのにもかかわらず、相田さんは係長の分のコーヒーも注文した。係長がコーヒー好きなのは、私と京子はもちろん知っていた。しかし、相田さんはそれを知っていたのだろうか。そんなことを考えていると、店員が注文したものを運んできた。
「寒い時に飲むクリームソーダ、格別よねー」
「相田さん、佐々岡さんの殺害現場に、係長の名刺が落ちていたそうです」
「……名刺……ですか」
「網走署の刑事にはもう何か話されましたか?」
「ええ。今朝から、殺された佐々岡さんについて、訊かれました。でも全く知らない方です」
「係長が名刺を誰かに渡したとすると、真っ先に、それは相田さんではないかと思うんです。係長から名刺を渡されましたか?」
「……いえ、もらってません」
「そうですか」
「相田さーん、昨日の夜、係長と会ってませんでしたー?」
「いいえ」
「そうですよねー。あんな変なおっさんと逢引なんてしませんよねー」
京子はいつも通り毒舌だった。
「相田さん、係長とは以前から知り合いではないでしょうか?」
「……いえ」
「昨日、係長がトイレに行ってる間、相田さんは係長の分もコーヒーを注文しましたよね。どうしてでしょう? 係長がコーヒーを飲むとは限らないですよね」
「……どうしてって……普通はコーヒーじゃありませんか? 紅茶よりもコーヒーのほうが普通だと思います」
「係長がトイレから戻ってきて自分で注文するまで待つこともできましたよね」
「……店員の方が忙しそうでしたし、それに、村田さん、網走署で缶コーヒーを飲んでましたので、それで、コーヒー好きなのかなと思って、注文しました」
「そうですか」
「そうよー、小春。男は大抵コーヒー好きでしょ。こんな美人さんが係長みたいなおっさんと知り合いなわけないんだからー」
京子にそんな言われ方をした係長が少し気の毒だった。私は、考えすぎだったのかもしれないと思った。そして、私たちは漁港で最近起きている窃盗のことについて話をして、喫茶店を出た。私と京子はホテルへ戻ることにした。
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