第4話 喫茶店へ

 私たち四人は喫茶店へ入った。客が数十人は入れる規模の大きい店だった。店の名前は「喫茶 流氷」。店に入って早々、係長はトイレに行った。

「いらっしゃいませ」

 店員がすぐに水を持って私たちのテーブルにやって来たので、注文をした。私は紅茶を、京子は壁のメニューをチラ見してクリームソーダを頼んだ。相田さんはコーヒーを頼んだ。

「あっ、コーヒー二つお願いします」

 相田さんは係長の分もコーヒーを頼んだ。

 しばらくして、係長が戻ってきた。

「わりぃ、わりぃ、あれ、注文してくれた?」

「こちらの美人さんが、係長の分のコーヒー、頼んでくれましたよー」

「あっ、あの、相田、相田理恵と申します」

「あっ、私は香崎小春です。T県警の刑事です。村田係長の部下です」

「私は磯田京子。同じく村田係長の部下の刑事の一人でーす」

「えー、私は、村田圭吾といいます」

 全員、自己紹介が終わった。京子は冷たい目で係長をじっと見ている。

「で、お二人はどんな関係なんでしょうか?」

「あの、私が海獣祭りの日に、スリに遭いそうになって、思わず叫び声を上げてしまったんです。たまたま村田さんが近くにいらっしゃって、スリらしき男を追いかけてくださいました。それで、漁港にある倉庫の中まで追いかけて行った、ということなんです。なので、私のために誤解が生じてしまいまして、村田さんにはご迷惑をおかけしました。それでぜひ、お礼を言わせてもらいたいと思ったので、個人的にお会いしました」

「ふーん、係長の泊ってるホテル、わかったんですねー」

「それは網走署の刑事さんが教えてくれました。村田さんも刑事さんなので、滞在してるホテルくらいなら教えても問題ないだろうって」

「ふーん」

「皆さん、刑事さんなんですよね?」

「はーい、そうでーす」

「相田さん、ご職業、伺っても?」

「はい、えっと、漁港のすぐ側で雑貨店を経営しています」

「でも相田さん、よく係長ともう一度会おうと思いましたよねー。刑事にお礼なんて必要ないですよー。それに、係長って、見た目が怪しくないですかー?」

「何だバカ野郎。相田さんは、俺のハードボイルドな雰囲気に気づいてくれたんだよ。だから、お礼を言いたいっていうのはだな、もう一度会うための口実じゃーないのかな」

「野郎って、私、女性なんですけどー。はい、セクハラですねー」

「もう一度会うための口実って、係長、すごい自信ですね」

 店員が注文したものを運んできた。

「お待たせしました」

 私は紅茶にレモンを絞っていた。相田さんはテーブルに備え付けの砂糖とミルクを取って自分のコーヒーに入れて、係長に渡した。係長は角砂糖を5個ほど自分のコーヒーに入れた。

「係長ー、コーヒーにそんなにたくさん砂糖入れて、どこがハードボイルドなんですかー?」

「うるさい!」

 私たちは30分ほど話をして、その後、相田さんは帰っていった。網走署で見たときと同じように、相田さんは係長に何かを言いたそうな感じだった。係長もどこかぎこちない感じがしていた。私は違和感を持った。

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