前日譚:第二話
眩しい。
気がついたらもう朝になっちゃってた。
少しだけ仮眠するつもりだったんだけどな……。
「おはよう」
「うん、おはよ……うん?」
お母さんじゃない。
声だけ聞くと……多分、私と同い年か少し前後くらいの女の子の声。
「るーちゃん、元気にしてる?」
「お母さんは元気にしてるよ」
るーちゃんって呼ぶって事はギルドのメンバーの人……?
うまく状況が飲み込めずにいるけど、とりあえず身体を起こす。
女の子が居た。
とても、キレイなで可憐な女の子で……。
一度、見たことのある顔だった。
「……桜さん?」
お母さんが夏に会った時に撮った記念写真と同じ容姿をした、その子は。
「椿ちゃん頑張ってるね、凄いと思う」
「桜さんも頑張ってるじゃないですか」
ぼさぼさの髪を手で整えていると桜さんは私の隣に座る。
「私なんてまだまだだよ。夢があるって凄いことだと思う」
……そうなのかな。
私も、昔から憧れてた事がしたかった、それだけで進路を専門学校にしただけで。
あんまり核心的な目標は無い。ただ、それが学びたかっただけ。
「ちゃんと目標はあるんだから、私の分まで頑張ってほしいなって」
「……桜さんにも頑張って欲しいです、私は」
少しだけ間が空いて。桜さんはありがとう、と私の頭を撫でる。
「な、なんで撫でるんですか?」
驚いてしまって、それと同時に優しさが伝わってきて……。
「桜ちゃんが少し寂しそうにしてたからさ」
「寂しそう……ですか?」
心当たりが無い。
「私がるーちゃんと話してる間、椿ちゃんの時間を奪ってるからさ」
「……その間は勉強してたりしてますし――」
――そうじゃないんだよ、と桜さんは続けようとした私の言葉を遮る。
「もっと甘えていいんだよ。一人じゃないんだから椿ちゃんは」
「甘える、ですか……」
甘えるって、どうすればいいのか。わからないけど。
今、この頭を撫でられてる状況はとても落ち着く。
「そろそろ私は時間だから行ってくるね、るーちゃんによろしく」
「ちょっとまってまだ――」
――その瞬間、意識が反転する。
***
「……お母さん?」
「バレた」
寝ている私の横に座り、珍しく頭を撫でるお母さん。
「早く起きたから椿の様子を見に来たら凄い笑顔で寝とったから、思わず撫でてしまったんよ」
「楽しい夢でも見てたのかな」
そうなんやないかなぁ、とお母さんは笑う。
……甘える、か。
「わっ、椿いきなりどしたん、そんな甘えて」
小さな頃みたいに、お母さんに抱きつく。
「なんか、こうしたいなって」
「そかそか、まだ朝は早いから思う存分しときね」
お母さんの膝を枕にして、頭を撫でられる。
「元気になってきた」
「それなら良かったわぁ、最近詰め込み過ぎとったもんなぁ椿は」
そんなに?と思わず声が出てしまう。
「桜ちゃんの事も心配やけどな、椿は私の娘やし。一番心配なんよ?」
「うん、お母さんの気持ちに応えれるようもっと頑張る」
頑張りいな、とお母さんは言うと私を優しく起こす。
「それじゃあ仕事行ってくるけんね、お弁当台所に置いてあるし椿も学校遅れんやにね」
「ありがと、行ってらっしゃいお母さん」
時計を確認する。少しだけ時間はあるけど、準備はしないと。
あくびをしながら、夢の事を考える。
……どんな夢だったか、思い出せない。
気がついたら寝てて、気がついたらお母さんに撫でられてた。
「そんなに疲れてたのかな」
どんな夢だったか気になる、でも思い出そうとしても思い出せない。
でも、とても暖かくて。気持ちが安らぐ夢だったような気がする。
「今日も一日頑張ろう」
準備をして、お弁当持って。
「行ってきます!」
今日も太陽が眩しい。でも、それはまるで――私を応援するかのように暖かい。
もう少しで受験、もっと頑張ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます