第四話
さて、特急に乗り遅れないうちにと駅まで車で走る。
他愛も無い話をしながら、時折二人の家族らしい同じ仕草を見たり。
別に自分が家族と不仲と言う訳ではないが、一人暮らしを続けてる分ちょっと離れているのが辛い……時もある。
なんて思いながら駅の近くに着く。
駅直結の施設で最後に軽く晩御飯を食べる。
「もう少ししか時間ないんよねぇ、もっとゆっくりしたかったんに」
「またゆっくり出来る時に来るよ。そのために私も頑張るし」
楽しみにしてるね――楽しみにしとるよ、と。二人の声が重なる。
あはは、と笑う私につられて二人も笑い出す。
るーちゃんがトレイを片付けてる間、椿ちゃんと話す。
「今日は本当に楽しかった、ありがとうね!」
「私も……旅の最終日とは思えないくらいリラックスできてよかった」
お母さんが色々とドタバタしてごめんね、と笑う椿ちゃん。
ちょっとだけ、静寂が訪れて。
「……また、会えるよね?」
ふと、そう聞かれた。
「うん、また会える」
根拠はないけど、何か確信が心の中であった。
「それまでに大切にしてるね、ブレスレット」
椿ちゃんが私の腕のブレスレットに重ねるように、自分のブレスレットを重ねる。
「私も、絶対大切にする」
「本当に仲良くなったねぇ、二人共」
お揃いのブレスレットを合わせながら。お互いの目を見ながら、微笑む。
「さて、特急の時間も近いし行こうか」
電車の時刻まであと三十分程だが早めに席を取って起きたいのもあるし。
……非日常が、日常に変わっていくんだなと寂しさを感じつつも。
今はこの温もりを大切に味わう。
***
「じゃあ、本当にありがとうね!」
改札の手前で二人に手を振り改札を抜ける。
はぁ、旅が終わる。
……と、椿ちゃんも一緒に来る。
「ん?え、あれぇ?」
「定期持ってるから入るだけなら出来るんだよー」
改札の奥に見えるるーちゃんが慌てて入場券を買いに行くのが見えた。
「特急の場所は近いし、先に行ってようか、桜ちゃん」
「そうだね、自由席の近くまで行ってどれくらい居るかも見たいし」
そう言いながら、歩いていく。
改札の外からは見れないが改札を抜ければ見れる、そんな場所で。
「あの、桜ちゃん。少しいい……かな?」
「いいけど、どうし――――」
――――人生で初めて。
……。
「……!今、私……」
「椿ちゃん、えっと……」
真っ赤に染まる顔のほてりをどうにか落とそうと必死に頑張る。
「……ごめ――」
「――嬉しかった」
えっ、と固まる椿ちゃん。
正直な所、かなり唐突過ぎる行動に驚きを隠せないのはあった。
だけど、それだけど。それ以上に。
嬉しさが湧き上がってくる、心の中の何かが溶けていくような。
……それと代償に、少しだけ切なさも感じる。
「本当だよ、凄い嬉しかった」
心が満たされていって……多分、この感情が。
私が今、人生で初めて経験する感情なんだろう。
「入場券の買い方一瞬わからんくて焦ったわぁ」
るーちゃんが少し息を切らしながらこちらに来る。
なんとかほてりが収まってきた、気がするので顔をるーちゃんと桜ちゃんの方に向ける。
「それじゃあ、今度こそだね。また会える日まで!」
「うん、二人で待っとるよ。帰りもちゃんと気をつけてね」
無事帰るまでが旅、だからね。と返す。
「ちょっと、少しだけ!」
椿ちゃんが私を呼び止める。
そして、大胆に。
「そんなに寂しいくらい仲良くなっとったんかぁ」
三秒程だろうか、椿ちゃんに抱きしめられる。
「――待ってるから」
耳元で囁かれる。
今度こそほてりが隠せない。
「うん、仲良しになったよ、お母さん」
「いいことやぁ、お母さんも嬉しいわぁ」
なんとかかんとか、恥ずかしさとか様々な感情を整理しながら、次こそ車両に乗り込む。
私が見えなくなるまで、ずっと手を振っててくれる。
あぁ、非日常が終わる。
溶けていく、日常へと。
だから旅が好きなんだ。
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