第三話

 そのまま美術館をサクサクと練り歩き、出口付近のおみやげコーナーを冷やかして。

「ここの外の道も有名な場所なんよ。ほら、沢山店もあるやろ?」

 これまた綺麗な道に綺麗な建物。

「気になったお店あったら入ろなー」

「あ、ちょうどここのお店気になる!」

 入ったのは、所謂パワーストーンと呼ばれる類の。

 別にパワーストーン自体に効果を求めてはないが……綺麗なモノを見ていると少し心が落ち着く。

「えーっと、桜ちゃんの誕生石はこれやねー。うーん、あとは」

 と一人で何か悩みながら店をぐるぐるしだするーちゃん。

「お母さん、何してるんだろ……?」

「乱数調整じゃないかなぁ」

 パワーストーンに乱数調整、このワードの組み合わせに二人で笑ってしまう。

「私もこう言うの好きだからなんか、趣味結構合うんだねって嬉しくなってる」

「私も。……あんまりこう言うの好きな人って居なかったからさ」

 ちょっとだけ寂しくトーンを落としてしまう。

 ――その時。

「大丈夫、今は私が居るんだから……なんてね」

 私の頭を撫でながら笑う椿ちゃん。

 安心感、心地よい温もり……。

 少しドキッとしてしまったことにもびっくりしたけど、それよりも心が癒されていく。

 あっ、と椿ちゃんは手を離す。

「もう少しでお母さん二バレるとこだった」

「つまり、二人だけの秘密?」

 うん、二人だけの。と人差し指を口に添える椿ちゃん。

 ……名残惜しいなんて、思ってしまった。


「私達は終わったけど、お母さん見終わったの?」

「えぇもん買ってきたよ、とりあえず外出よかー」

 お店の中で商品の開封はそりゃ出来ないので外に出る。

「じゃあそこでちょっと休憩しよか」

 まぁまぁ観光地料金なソフトクリームをとても暖かい店内で食べる、至福。

「桃味美味しい?」

「うん、美味しい。だけどるーちゃんが贈ってくれる桃には絶対勝てないね」

 るーちゃんの家は元は農家をやっていたらしく、沢山の桃の木があるらしい。

 私が果物好きだと知った後、毎年桃の時期になるとるーちゃんは私に桃を贈ってくれる。……しかもわりといい値段するであろう品種を。

「一口いい?」

「うん、じゃあその抹茶と交換ね」

 交換した抹茶味を一口。うん、とりあえず抹茶はどこでもこんなもんだよね。

 やっぱりうちの桃が一番美味しい、と笑う椿ちゃん。

「美味しいって言ってくれてありがたいわぁ、育てとるのもただ育てるだけじゃ大変やからねぇ」

「何本も生えてるんでしょ?毎年その時期になると今日は疲れとるから寝てるかもって言ってるし本当に凄いなぁって」

 半分は趣味やよ、と返するーちゃんに椿ちゃんが返す。

「趣味って言いながら桜ちゃんに送るためにちゃんと厳選してたりするじゃん」

「そりゃあ美味しいやつを優先で食べて欲しいけんねぇ。それも趣味やよ」

 そう言えば去年贈られてきた桃には食べ頃が少しずつバラけるように熟度が少しずつ違う桃と食べ頃のメモが添えられていた。

「あの時は贅沢に丸かじりした、本当に美味しくて毎年楽しみ」

 るーちゃんは凄い嬉しそうにありがとうねぇ、と私の頭を撫でる。

 ……風習なのかな。

「お母さんが頭を撫でるなんて珍しいね」

「まるでいつも撫でるより殴るみたいな言い方やねぇ、椿?」

 軽く椿ちゃんの頭にふんわりと優しさを込めて、ぺち。

「いつも言葉で返すから、新鮮な表現方法だなって」

「それは椿もやろ?ボディランゲージ苦手なのは親子揃ってや」

 ……そうだろうか?

 あの時の椿ちゃんの撫で方、なんと言うかとても感情がこもっていた……気がする。

 私の思い込み過ぎ、だったのかな。そう思いながらソフトクリームを完食。

「あぁ、そうだ。渡し忘れる所だったわぁ、これ、桜ちゃんと椿に」

 それぞれの誕生石がワンポイントに一個だけ付いてるシンプルなブレスレット。

「二人が仲良さそうにしとったし、ちょうど良さそうなものがあったからねぇ」

 これで二人共家族やよ、と笑うるーちゃん。

「ありがとう、大切にする」

「そうしてくれると嬉しいわぁ」

 早速その場でブレスレットを二人で着ける。

 お揃いのものなんて、本当の家族ですらなかなかやらないけど。

 私だけかも知れないけど、とても心地よかった。

 ……椿ちゃんはどう思ってるのかな、と少し考えながら。

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