第二話
中は……これまたお洒落と言うか、本当に民家をそのまま使ってるタイプのお店なんだろう。
予約の、とるーちゃんが店員さんに告げると店員さんは笑顔で答える。
なんだろう、こう言うお店に来たことは何回かあるはずなのに……所謂実家のような安心感がある。
靴を脱いで、下駄箱に入れて……。うん、本当に古民家風と言うか家だ。
出された料理は――和。
なんと言うかこれは……修学旅行先で食べるみたいな感じだな。
実家感から途端に旅に引き戻される。でも、これもまたよし。
「それじゃあ、いただきます」
三人で同じポーズ同じ発言、同じタイミングで箸を割る。
いや、そこまで同じことある?と一人で笑いながら舌鼓を打つ。
「うわっ、美味しい……本当によくこのお店見つけたね」
「せっかくだから美味しいもの食べさせたいなぁ思って必死に調べとったんよね」
そこに椿ちゃんも乗っかる。
「私も手伝ってたけど結局ここが見つかった瞬間二人で笑っちゃって」
だからすぐ予約したんよね、とるーちゃんは笑いながらとても美味しそうにご飯を食べる。
椿ちゃんも美味しそうにご飯を食べてて……やっぱりご飯を食べてて笑顔になる人を見るのって、いいなぁ。
「やっぱりこうやって御飯食べるのいいなぁ」
「桜ちゃんは一人暮らしやもんねぇ」
一人暮らしだし、友人が居ないわけではないけど……さほど外に出るわけでも無いし。
結局はだいたい一人で学食か帰って自炊、疲れたらコンビニ弁当。
うーん、考えたら悲しくなってくるからやめよう。今は楽しい食卓を囲んでるんだから。
「本当に家族で食べてるみたいやわぁ、そろそろセットのデザートも頼もうか」
ドリンクを決め、セットのデザートを注文するるーちゃん。
「私はゲームやってないんだけど、この子だけ凄い好きなの」
「あっ、このこの子は私も好き!ストーリーで出てきた時かわいいしか感情がわかなかった」
前に絵も描いとったもんねぇ、とるーちゃんが笑う。
「これこれ、お母さんのスマホ借りて見ながら紙に描いた奴だけど」
「えっ、上手過ぎる……特徴も捉えてるしデフォルメになってるのもかわいい」
えへへ、と椿ちゃんは少し照れながら笑う。
「いつかちゃんと描きたいなって思ってたらもう試験だったから結局描けなかったんだよね」
「清書したら送って欲しいなー」
いいよ、連絡先も交換しようか、とデザートが運ばれてくる前にお互いの連絡先を交換する。
登録が終わったのを見計らったかのようにデザートが運ばれてくる。
これも美味しそうだなぁ……本当にいいお店だ。
外に見える庭も、今は冬だから少し閑散とはしているが、夏や秋になった時の想像はなんとなくつく。絶対にキレイだ。
***
そんなこんなで遅めの昼ごはんが終わり、次の場所へ。
「次はお待ちかねの場所やよ」
「……この道ってことはあの美術館?」
前からこの美術館にある絵画を一度は見てみたかった、そう溢したのをどこかで覚えててくれたんだろう。
「正解やよ、ちょっと車停めて駐車券処理してくるから待ってて」
るーちゃんが車から降り、私と椿ちゃんの二人になる。
「……桜ちゃん、チョコ食べる?」
「あ、食べる!」
小さいチョコを何個か手渡してくれる椿ちゃん。
……手、小さくてかわいいなぁ。
私に比べてネイルもちゃんとしてるし、なんか私とは違う世界みたいな。
「桜ちゃん、そのネイルってネイルサロンでやったの?」
「いや、自分でいっつもやってるよ」
凄い、と椿ちゃんが素の驚きをする。
「私、実は今日のためにネイルサロンちょっと行ってきたんだよね」
照れながら話す椿ちゃんを見ていると……とてもかわいいと言う感情が溢れてくる。
「自分で塗るの下手だし、あんまりするようなタイミングもなくて。だからたまに行くんだけど……今回は寒いのも我慢して行っちゃった」
「……今日のため?」
そうそう、と笑いながら話す椿ちゃん。
「だって、お母さんがあんなにわくわくしてるんだもん、家族だからなんとなく伝わってきて私も楽しみでさ」
ふと、頭の中に邪推が浮かぶ。
もしかしたらこれは、いや……考えすぎか。
「本当は道案内ってのも半分は建前、だったり」
……合ってた。
椿ちゃんも、私に会うのを楽しみにしてたんだ。
なんだか、少し胸が締め付けられるような。
でも、嫌じゃない感覚、むしろ……。
「ってお母さん帰ってきたね。降りようか」
「うん、降りよう」
るーちゃんは私達の顔を何回か見るとなるほどなぁとこぼす。
「いや、何がなるほどなのお母さん」
「いやぁ、仲良くなっとるなぁって。椿見てると一発でわかるわ」
そこまで……わかるもんなのかな?
「桜ちゃんも凄い……ニヤけよるよ?」
えっ、そんな!?と慌てて手で顔を隠してしまう。
「……あはは、そんなに仲良くなっとるんは私も嬉しいわぁ。さて、冷えないうちに入ろー」
るーちゃんと椿ちゃんについていく形で美術館に入る。
美術館に入るのなんていつぶりだろう。もしかしたら小学生の頃になんかの体験で行った時……?
色々な画家の絵を見る。昔教科書で見たことあったなと言う絵もちらほらある。
「桜ちゃん、ここやよ」
扉の向こうにはお目当ての絵画が。
「これがこの美術館が奇跡と言われてる理由、かぁ」
と、一人で呟きながら説明書きを読んだり。
ある程度予習はしてたけど、こう言った経緯もあったんだ、と改めて凄いものを見てるんだなぁと思いながら次の部屋に入る。
この部屋にはどんな絵があるんだろう、と見渡す。
――――。
一瞬で背筋がゾワッとする、嫌悪感ではなくこれは。
好きだとか、キレイだとか、そんな感情ではなくて。
ただただ圧倒される。声も何も出ず、硬直状態に陥る。
とてつもない絵画、横は……十メートル程だろうか。縦も二メートルはありそう。
宗教画なんて特に興味は無かった……なのにこれは。
「桜ちゃん、この絵凄いでしょ?」
「うん、びっくりしちゃって声かけられるまで固まっちゃった」
何回か来たことあるけど毎回凄いって見ちゃうからわかるよ、と椿ちゃんの声が私を現実へと引き戻す。
タイトルは……いやこれ長くて覚えられんわ……。帰ったら調べよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます