母の娘に恋をする。

るなち

雪解け、春の始まり。

旅の終わりは、出会いの始まり。

第一話

 ガタンゴトン、ガタンゴトンと。電車が揺れる。

「あと二駅くらいか……駅のホームの中、お手洗いあるのかな」

 少しだけ疲れで崩れたメイクを気にしながら電車は駅に止まる。

「……ないか。まぁ別にあの人なら気にしないでしょ」

 今日は旅の最後、親しい友人と会えることになったので急遽ルートを変えて最終日を楽しむことにした。

「待たせるのも悪いし早く改札出ちゃお」

 改札を出ようとすると――

「あ!桜ちゃん久しぶりー!」

 改札の目の前に、お目当ての友人が居た。

「るーちゃん元気なの変わらないね、最後が何年前だっけ?」

「確か二年前じゃなかったっけ?あの時は暑かったね」

 今日は冬真っ只中で寒い。

 コートの上に首元を厳重に隠すようにマフラーを巻いても寒い。

「でも今日はいい天気になってよかったわぁ」

「そうだねー……って、その子は?」

 友人、通称るーちゃんの横には私と同じ位の女の子が居る。

「ここまでは来れるけど今日行くとこは道あんまりわかんないから娘連れてきたのよ」

 るーちゃんの年齢は私と二十くらいは違うはず……。だから同い年の娘さんが居てもおかしくないか。

「こんにちは。私は桜、あなたは?」

「椿です、お母さんがいつもお世話になってます」

 そんなお世話になってるだなんてー、とるーちゃんは笑いながら。

「よくお母さんが桜さんの話してるから気になってたんですよね、実は」

「えっ、そんなに私の話してるの?」

 元々私とるーちゃんは同じゲームの同じギルドに所属して一緒に遊んでて。

 どこかのタイミングで偶然会える機会が出来たのが前回会った時。

「よくギルドバトルの時間になったりしたら話してますよ、今日も桜さんのおかげで勝てた!とか」

「なんか嬉しいような恥ずかしいな……」

 まぁまぁ、それは暖かい所でしよ、とるーちゃんは笑いながら駐車場に向かう。

「あ、荷物は後ろに適当に入れといてね、大変だったでしょ長旅」

「あちこち行ったから流石に疲れてるけど、元気なるーちゃんみて安心したよ」

 それならなによりやわぁ、と笑いながらるーちゃんは車を出す。

「桜ちゃんの為にお昼ご飯はいい場所取ってあるから、そこらへん観光しながら行こかぁ」

「ちゃんとお母さん場所覚えてるの?」

 もちろん!と自信満々にるーちゃんは車を走らせる。

 ……いやぁ、電車やバスもいいけどドライブも捨てがたいものだな。

「桜さんは普段何してるんですか?」

「今は大学生してるよ。椿ちゃんは?」

 私は専門です、と返してくる椿ちゃん。

「もう少しで試験なんよこの子、心配でねぇ」

「模試では一回も落ちてないから大丈夫だって。今日も帰ったら勉強するし」

 偉いなぁ……。

 私はなんとなくまわりに合わせるように惰性で大学生になったから……。

 ちゃんと目的があるのはなんだか羨ましいし、凄いな。

「ん、そろそろ付くよ」

 近くの駐車場に車を停め、外に出る。

 うぅ、やっぱり少し寒いけど……歩けば暖かくなってくるかな。

 そう思いながらるーちゃんについていく。

 角を曲がると――。

「おぉ……素敵な町並み」

 昔ながらの建物を活かしたタイプの町並みはとても好きだ。

 ごちゃごちゃと人で溢れかえるようなスポットよりも静かに好きなように動けるし。

「ここやねぇ、蔵をそのまま改造したお土産屋さんなんよ」

「うわぁ、こう言うの大好きだ」

 だと思ってた、とるーちゃんは振り向きながら笑う。

「とりあえず入りましょう、寒いですし」

 少しだけしか歩いてないからやっぱり寒いのには変わりなかった。

 建物は出る時にもう一回振り返ればかな、と中に入る。

「うわぁ……凄い!」

 店の中にはご当地の名産品が沢山並んでおり、その中でも一番興味をそそられるのが――

「――こんなにマステがあるなんて……!」

「マスキングテープはここらへんが有名なんよね?椿」

 椿ちゃんはメーカーがあるからねと返す。

「だからこのメーカーのマステがこんなに……」

「マステ、好きなんですか?」

 ここのメーカーが一番好き、と返すと椿ちゃんは凄い笑顔になる。

「椿は結構集めとるんよねー」

「桜さんもマステ好きだったなんて、なんか嬉しいです」

 三人でほっこりと笑顔になる。

「あ、そうだ。せっかくだし敬語とか崩さない?」

「いいですよ……えっと、いいよ。桜ちゃん」

 改めてよろしくね、と返しながら二人でマステで盛り上がる。

 ……あれ、るーちゃんは?

「お母さんは多分他の場所のを見に行ったんじゃないかな?」

「なるほど、確かにマステ以外にも沢山のモノあるし」

 と話をしているとちょうどるーちゃんがこちらの方に戻ってくる。

「一階は見終わった?」

「ほとんどマステしか見てないけどさくっと見てきたよ。マステだけ買ってくるね」

 カゴに定番の柄とあと何個かここの限定品の柄のマステを一緒に入れてレジに向かう。

「……あ、桜ちゃん。よかったらそれのお代私が出していい?」

「えぇ!?結構買ったよ?」

 マステ好きってので親近感湧いて嬉しかったから、と笑顔で言われるととても断れる物ではないので。

「それじゃあお言葉に甘えることに」

「よかった、えへへ」

 マステの入った袋をマステで封される……ちょっとおもしろくて、ここならではの物を見ながら次は二階へと向かう。

「二階はフルーツ系なんよ、このドライフルーツとか……あそこにはフレーバーティーもあるよー」

「あぁー、ダメだお財布が溶けちゃう!」

 私が控えめに叫ぶと、また三人で笑いながらいいものがないか見繕う。

「ん、このドライフルーツミックスは美味しそう」

 あ、それは私からのお土産でさっき買っといたよ、とるーちゃんが袋を差し出してくる。

「えっ、ありがと!じゃあそれ以外にしよ。フレーバーティーあたりを……」 

「フレーバーティーはこれを買っておいたよ、その袋の中!」

 うぉぉ、ドンピシャで当ててきてる。流石毎日まったりと会話してるだけあるなぁ。

「お母さん、特に桜ちゃんがお気に入りだからねー。数日居なかった時凄いあたふたしてたもん」

「それはほら、心配になって当然やん?」

 それにしては慌て方凄かったよ、と椿ちゃんは笑いながら。

「あぁ入試かなんかで忙しかった時かな」

「多分そうやねぇ、日付全然違う日だと思ってたから風邪引いたんじゃないかと慌てとったわぁ」

 私の入試の日と逆に覚えてたよね、と椿ちゃんが笑う。

「だって桜ちゃんも娘みたいなもんやもん、心配になるよー」

「あの時応援してくれたから頑張れたのもあるよ、お母さん」

 ちょっと最後だけわざとらしく強調して話す。

「お母さんだなんてー、嬉しいわぁ」

 そんな話をしながら店を出て――。

 やっぱりこの建物いいなぁ、と思いながらるーちゃんについていく。

「そろそろお昼やけど、本当に面白いいい店見つけたから!ちゃんと案内するねぇ」

 なんだろう面白いのって、とワクワクしながらついていく娘二人組。

「見つけた時運命だと思ったって笑ってたもんね、スマホ見せながら」

「あれは運命だよ、びっくりしちゃったもん」

 そんなに面白い店……なのか。

 歩いているとふと二人が止まる。

「えっと、ここらへんなはず、やよね椿」

「うん、ここらへんだと思うけど」

 少しだけ慌てだす親子を見ながら。

 ……遠目に、桜と書かれた看板を見つけた。

 あっこれかぁ。

 しかし気付かないふりをして、二人を追う。

「上から見渡せば見えるんじゃない?」

「流石桜ちゃんやね!そうしよかぁ」

 少し高めの位置にある神社へと階段を登る。

 いや、ここまで来ちゃうともう見えないんだけど……ね?

 っと、鳥居があるんだった、礼しておかないと。

 鳥居の前に立ち、一回頭を下げる。

「桜ちゃんえらいなぁ、ちゃんとそう言うとこも知ってるんやねぇ」

「ちょっと前の旅で友達が教えてくれてからどんな神社さんでもやってるよー」

 椿ちゃんも入る前に真似して頭を下げる。

「……これで合ってるかな?」

「うん、ばっちりだと思うよ椿ちゃん」

 その後るーちゃんも頭を下げ、神社の中に入る。

 とは言え、高台を取るためだったのでそのまま下の方を見る。

 残念ながら木々で看板もお店も見えないんだぁこれが。

「えぇー椿わからん?」

「うーん、わかんないや。桜ちゃんには驚いてもらいたいからなぁー」

 一発で見えちゃったしもうドッキリもなにも無いんだけど、少しおかしくて笑い出しそうになるのをなんとか堪えて楽しみ、と返す。

 ……私の視線はもう建物の方向に向かってるんだけど。

「ここじゃ見えないのかな、降りようかお母さん」

「そうやねぇ……でも地図的にはこのあたりなんだけど」

 と階段を降り、先程の店のあたりで立ち止まる。

「椿、もしかして……あそこ?」

「うん、あそこだよお母さん」

 るーちゃんが指差す先には――桜と書かれた看板。

 歩道から店の入口までおよそ十メートル程あるので確かに分かりづらい。

「……あははっ!ごめん、最初にここで気付いちゃってた!」

「私も気付いてたんだけど……面白そうだからお母さんに言わないでおいた」

 二人共なんてことをー!と笑うるーちゃん。

 三人で笑いながら店に入る。

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