カイへのお仕置き
王都ニケへの道中。
それまでギルドにいて色々忙しかったリンも暇だった。するとそれまで考えなかった事が頭に浮かぶ。
突然隊列を離れ、少し前で兵士に囲われ荷馬車で運ばれる移動牢に近付いた。この小さな持ち運び可能な牢屋の中では世に知られる殆どのスキルは効力を無くす。透明になるという厄介なスキルを持つカイには必須のものだった。
「おい、カイ」
「……」
「返事しないなら殺す。マジで」
スラリと剣を抜き放ち、荷馬車の車側へと飛び乗った。
こんな言動のリンは珍しかった。カイは怯えた顔でリンから少しでも離れようとする。
「お前、なかなか酷いやつだな。さすがあのクソ野郎の息子だ」
「酷くないし、これ位の扱いは当たり前だろ。お前はローズを殺しかけたんだ。ローズが死んでたら当然無かった命だと思え」
リンがそう言ったのが耳に入り、ローズが隊の後ろの方で顔を赤くする。
「わかったよ、で、何か用か」
「お前、どうしてずっと透明だったんだよ。永続効果のある、パッシブスキル以外のスキルには効果時間とクールタイムがあるだろ」
「フン。俺様のはその辺のゴミスキルとは出来が違うん……」
言い終わる前に牢の中に剣が差し込まれた。
後ろ手に縛られたカイは後ろに反るしかなく、その顎先で剣は止まった。
恐ろしい程の目付きでカイを睨むリンは、
「そんな厄介なスキル持ちはやっぱりここで殺してしまおう」
「ま、ま、ま、待て待て、待ってくれ」
「待ってほしいならローズに謝れ」
「いやそれ今関係ねえし、もう今までに何回も謝っただ……」
更にグイッと突き出される剣。更にギラつくリンの目。周囲の兵士達は見て見ぬフリを決め込んでいた。
「わか、わかった、分かりました! ローズさん、酷い事してすみませんでした!」
ローズは更に顔を赤くして俯いてしまった。リンが自分の事で怒っているのが嬉しいのだ。
「本当、弁えて喋れよ? お前に人権は適用しない。この俺が」
「分かりました! 取り敢えず剣を引っ込めてくれよ、ちょっと刺さってますって」
リンは渋々といった感じで剣を鞘に戻す。だが目はキッとカイを睨みつけたまま言った。
「さっきの答えを言え」
「……王都の地下牢に入っていた時に考えたんだ。俺の『透過』スキルを霊符にしてしまえば効果が切れる前に重ね掛け出来るってな」
「成る程。霊符か。それで山の中にいたあのお前の仲間も透明になってたって訳だ。だがそんな多くの霊符をどうやって手に入れたんだ?」
「牢にいる間に書き方を勉強して、脱走してから少しずつ書き溜めていった」
「自作か。今持ってる枚数は?」
「持ってねえよ」
バシュッ! 再び突きつけられた剣は今度はカイの頬にしっかりと刺さった。
「ヒッ! ひ、
「このまま殺したら、スカッとするだろうなぁ」
「ヒッ」
リンは牢の鉄格子に顔を食い込ませ、ギョロリとカイを睨みつけた。
「お前みたいな嘘吐き野郎が死んだとて、だろ。俺はローズの仇が取れて嬉しい。周りの兵士さん達は仕事が楽になって嬉しい、国民は透明になるクソ野郎が居なくなって嬉しい……あれ? なんだいい事ずくめじゃないか……」
「んひぃぃぃ」
「言っとくが俺のスキルはお前とガチで1対1でやっても、お前に万に一つの勝ち目もないものだからな。そこから出して公開処刑してやろうか? いい加減お前も楽になりたいだろ」
その返事として顔を振ろうとして痛みで変な叫びをあげる。頰に剣が突き刺さっているからだ。
「ひ、ひや、ひや、ゆるひて」
「ダメだ。俺はお前を絶対に許さない。億が一、ローズが許してもだ」
「んひ、んひ」
「分かったら大声でローズに謝れ」
そんな事が数回繰り返され、結局カイが3枚霊符を隠し持っていた事がわかり、全てリンに没収される。
去り際、兵士長に向かって、
「こいつを死刑にするなら俺がやります」
そう言って再びカイをギロリと睨んだ。
「ひ、ひぃぃ、ごごご、ごめんなさいぃぃ」
カイは狭い牢の中でリンから逃げようと必死だった。周囲の兵士達も若干引き気味だったのは言うまでもない。
再び隊列に戻ったリンにシャオが開口一番、「やり過ぎ、ではないですか?」と言った。リンは笑って、
「やりたりない位だよ。ローズに酷い事して」
「でもあんなに脅すなんて……リンらしくないです」
「そうかな? うん。まあわざとだね。万が一また脱走などしたとして、今回みたいに仕返しなど考えない様、牢の中にいる方が安全だと思える様に釘を刺したんだ」
そこで皆、ようやくリンらしくない行動に納得した。ローズは顔を赤くしたまま暫くリンを直視出来なかった。
―――
『愛と平和』ギルドを出て18日後。
ニケ領の周辺は自然の多い、他領と変わらぬ景色であったが、その中心地であり王国の都ニケはやはり一線を画す賑わいを見せていた。
特殊な硬い土で舗装された綺麗な道、歩く人並みの多さ、人々のファッション、店の多さと種類、どれを見てもリン達が住むマイルの街どころかニツィエ領城近辺とも比べ物にならない程賑わったものだった。
この辺りは領の名前と同じくニケという都市で、その中心に王城がある。『王都ニケ』と呼ばれる街に彼らはようやく辿り着いた。
街並み同様、王城の豪華さも規模もニツィエ領城とは比較にならない。高い城壁にある小さな通用門を通り、彼らは城内へと入った。
同時にカイの移動牢を受け取りに城内から何十人と兵士達がやってきて彼らに労いの言葉をかける。
20日間近く旅を共にした兵士長が汗を拭きながらリンに言った。
「リンさん、有難う御座いました。お陰でこいつも大人しくて助かりましたよ」
「いえいえ。何かあったら言ってください。すぐに駆けつけてぶちのめしてやります」
「ワッハッハ。これは頼もしい限り。では我々はこれで」
少し頭を下げて去ろうとする彼を呼び止めた。
「あ、待って。サンドロさんに会わせてほしいんですが」
そこで兵士長がパチンと手を打った。
「これは失礼しました。報酬がございましたな。ご案内しましょう」
兵士長を先頭にリン達は王城へと入って行った。
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