透明人間を捕らえよ(2)
一方、リンのパーティの方でも追跡に苦労していた。
何しろ広い山中、たった1人の足跡を見つけるのは本来、不可能に等しい。
リュードを先頭にアクセル、リン、ランドルフと続き、慎重に手掛かりを探っていた。
と、突然。
「むっ」
「!」
「構えろ」
全員がそれを感じ取った。
「殺気だ」
リンが左右を交互に睨む。
「これは助かる。向こうから出てきてくれるとは」
飄々とアクセルが言う。
見えない場所からの攻撃は恐怖である。だが確かにアクセルの言う通り、これはチャンスでもあった。リュードに念を押す様に言う。
「リュー、よく見とけよ」
「勿論さ」
リュードも腰を低くし、弓を構え、気配を探る。
突然!
「がっ!」
呻きを上げて前に倒れ込んだのはリンだった。背中から弓で撃たれ、矢は胸へと突き抜けている。
「リン!」
「構うな! リュー、撃て!」
アクセルはリュードに叫び、自身はリンへと駆け寄った。リュードはリンが向いていた位置から射撃位置を推測、
「『乱れ打ち』」
一矢を放つとすぐ様、スキルの効力によって10本に増え、目標付近に到達した。
「チッ。あの辺りからの筈なんだけど」
手応えなく、草木に刺さる矢を見てリュードは悔しそうな表情を見せた。それと同時に、ザッ……ザッ……と遠ざかって行く音が聞こえた。
「ほれ治ったぜ、リン」
「ありがとうアクセル。あ~~
背中と胸の辺りを押さえながら呑気ともとれる口調で言った。
「さぁて、折角向こうから来てくれたんだ。ご希望通り追いかけてとっちめてやろう」
彼らは敵が矢を放ったであろう方向に向かって走り出した。
―
程なく小道に出た。
「こんな田舎の山にも道はあるんだねぇ。リュード、お願い」
リュードは頷いてリンの前に立ち、辺りを調べ始めた。
アルフォンスと同じく足跡等から追跡を行うのだ。
「うん。この小道を進んで行った、で間違いない。足跡が新しい」
「よし、行こう」
そうして追跡を再開したほんの数分後、今度は先頭を走っていたアクセルが止まる。
「どうしたの?」
「んあ? いやあ……」
リンに聞かれ、彼は手のひらで前方を指した。
アクセルが指した小道の真ん中には草木が積み上げられていた。よく見るとその下から両隣の木の幹へロープが伝っているのが微かに見える。
(落石、もしくは矢か槍が飛び出す系か? 引っ掛けようとするには雑過ぎる気もするが)
アクセルはそう考え、
「こいつぁトラップだぜ。今から俺が解除するからお前らも注意しろ」
「ああ、頼むよ」
一方のリンもそう答えた後、全方位に気を配った。
アクセルがトラップと思しき草木の前に立ち、目だけを左右にやった後、意を決した様に座り込みトラップの解除作業に入った。
と、同時に!
ギッ……
微かなそれを弓を番えた音と判断したリンは間髪入れず、
「『八鎖』!」
「う、うわっ!」
ドンッ!
パラパラと地面に転がる数本の矢とすぐ近くの木の上から1人の男が地面へと落ちて来た。
「『乱れ打ち』!」
その男を目掛けて再び放たれたリュードの矢は今度こそ急所を除いてハリネズミの様にその男に突き刺さった。
「俺の出番は?」
「ナイス、リン、リュー」
ランドルフの呟きを無視してアクセルがそう言うと血塗れの男に近付き、顔を見た。
「ん……? 誰だこいつ」
その声に全員が同じ様に覗き込む。皆、総務官マヤからカイ・ルノーの模写を見せて貰っている。
目の前で瀕死の状態の男はそれとは似つかぬ、全くの別人だった。
「どういう事だ?」
「さて。分からないね。こいつに聞いてみよう」
「だな」
アクセルは男の頭の上に屈み、もう一度顔を覗き込んで言った。
「おい。俺は神霊術も出来るぞ。助けて欲しいか?」
すると男がコクッコクッと頷く。
「知ってると思うが俺達はカイ・ルノーを探している。どこにいるんだ?」
「くわ、しくは、知らない……が、ギリア、で落ち合う、予定……だった」
アクセルがリンの顔を見た。
「ギリアか。確かにあの国に逃げられてはこの国は何も出来ないだろうね」
「そうだな。方向的にもこの先だしな。ま、妥当だろう」
再び男の方に声を掛けた。
「で、お前は奴の何なんだ? 情報では仲間がいるなんて聞いてなかったんだが」
「う、う、俺達は……奴に雇われて……奴に透過の霊符を貰った」
「チッ。面倒臭え。で、何人いるんだ?」
「さ、3人」
「場所は?」
「知ら、ない……わから、ない」
リンの方を見ると、もういいよとばかりに頷いている。
アクセルは男の矢を抜くと、早く助けてくれと喚く男をロープと近くの蔦を使って何重にも木に括り付けた。
「さて。後で迎えに来るからな」
「ヒッ……ま、待って、約束が……き、傷をな、治してから……」
「治ってるだろうが。でなけりゃとっくに出血で死んでるぜ」
「え? え?」
不思議がる男を放置して取り敢えずギリアの方向へと進んだ。
―
「あ、あれは!」
凡そ10分後、リン達の前に思ってもいない光景が現れた。
「シャオ!」
ギットのパーティにいた筈のシャオが両腕を縛られ、木に吊り下げられていた。意識は無い様に見える。
そこはそれまでの樹海に比べると遥かに見通しの良い場所になっていた。
「こいつあ、あからさまに罠だろうなあ」
ランドルフが呟く。
リンを含め、全員がそれに頷く。
「と言って助けない手はない、んだけど」
来ると分かっていれば『八鎖』で落とす事も出来るだろうがいつ飛んでくるかが分からないとその成功率はグンと下がる。
と、そこに。
「リン!」
叫びながら走って来たのはギット達だった。
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