クエスト失敗冒険者を救出せよ(完)
「何て強力なスキルを放つ奴だ。何もんだありゃあ! こりゃあヤバいぃぃぃ!」
生まれて初めて味わった、『カオスフレイムの大噴火』の恐怖でシュドリオは半狂乱になっていた。
必死にガッパを操り、足元のギット達を踏み潰そうとするが、ギット達も熟練の戦士なのだからそう簡単に踏み潰されなどしない。
ガッパの操縦に必死になっているとリュードから強力な弓矢が、リオからは様々な属性の魔法の攻撃が間断なく飛んで来る。
「リーア様ぁぁ助けてぇぇぇ」
情けない声を出してそんな事を言っていたが、巨大なガッパに乗っているシュドリオの泣き言など、地面で必死に戦うクリッド達には聞こえない。
リュード達の攻撃もかなり強力なものであり、命中している筈だがシュドリオの防御を突き破る事が出来ない。
ガッパが時折、ブレスの様にして放つ猛臭の催涙ガスも状態抵抗バフが切れれば死活問題だった。
戦況を見てクリッドが決断した。
「よし。まずはガッパだ。あれを倒して奴を引きずり下ろし、皆で集中攻撃をする」
だがその時!
「『雷神』!」
ガッパの上で人が殴られる鈍い音がし、そこにいたシュドリオが白目を剥いてガッパから落ちて来た。
「ローズ!」
リュードが叫ぶ。ローズはガッパの上に着地し、今度はそこからガッパの背中目掛けて打撃を放つ。
更にガッパの向こうから、男の叫びが辺りに響いた。
「リオ! あれ! 単体最強のやつ!」
「その声は、リン!」
姿は見えないがリンの声に反射的にリオがスキルの準備に入った。
だがそれまで大人しかったガッパが突然咆哮を上げ、暴れ狂い出す。
「チッ。大人しくしろてめ――!」
ローズの目が張り裂ける程吊り上がり、雷神を伴った両腕の拳を背中に叩き付ける。
シュドリオに制御されていた時とは格段に動きが違うガッパを見たクリッドがリンに叫ぶ。
「リン! やばいぞ、『八鎖』だ!」
「まだ早い。皆、力ずくであと10秒押さえつけろ!」
恐らくガッパの向こう側にいるであろう、姿の見えないリンの叫びにギットを始めとした血の気の多いメンバーだけでなく普段は冷静なリュードやシャオまでがいきり立つ。
クリッドとシャオの体の輪郭が光り始め、同時に強力なバフとデバフの希少スキルを発動する。
「『フランジャムの偉大なる光』!」
「『搦め捕る黒と白の棘』!」
クリッドのバフスキルにより10秒間この場にいる全員の筋力が大幅に向上する。結果的に殴る、斬る、走る等、全ての行動の威力が桁違いに上がった。
透明感のある白黒2本の鞭がシャオの手から伸びてガッパを襲い、その全身を縛りつける。20秒間、もしくはその鞭を破壊されない限りその効果は続き、対象の動きを制限する。
「『不動の巨塊』ィィィ!」
「『柔らかく吸収する巨大な綿毛』!」
クリッドとシャオの強力な支援を受け、ギットとトントがガッパの全ての攻撃をその身に受けた上で弾き、吸収する。
「『獅子の剛撃』!」
「『炎竜オリアスの砲撃』!」
「『ツインクルト星弓』!」
ギット達が攻撃を引き受けている為、アタッカー達が最大の攻撃スキルを放つ!
レオの一撃でガッパの胸の装甲が遂に破け、流血が始まった。
そこにベンティーニの砲撃とリュードの連射が加わり、ガッパが痛みに激しくのたうつ。
だがガッパを縛り付けているシャオの棘が淡く点滅し始めた。
「破壊されます! は、早過ぎる!」
シャオの悲痛な叫びが響く。
それをアッサリと掻き消すガッパの咆哮が地鳴りの様に轟いた!
「グゥオオオオオォォォォォォ」
ビンビンと体に伝わるガッパの怒り。
「リオ、まだか!」
「あと6秒!」
クリッドとリオの悲鳴が交差する。
強力な棘から解放されたガッパが2本の前脚を上げ、ギット達前衛を踏み潰しにかかる。勿論シュドリオが操作するよりも生来の動きが遥かに勝るのだ。
が ―――
突如ガッパがズゥゥゥンという轟音と共に前足を地面へと引き下ろす。同時にそれまで大暴れしていた
「これは……」
「『八鎖』だ!」
「リン!」
「リンだ!」
それに気付いたリオが安堵の表情を浮かべ、そして自身の単体最強スキルのカウントダウンがようやく終わるのを感じ、ニヤリとした。
「さっすが2代目、いい男はいいとこもってくわね!『アルカヴォリスの炎槍』、食らいやがれぇぇぇ!!」
突如、炎に包まれた巨神アルカヴォリスの上半身がリオの頭上に現れる!
手に持った巨大な燃え盛る槍を掲げ、ガッパに向けて投げ付けた!
爆音と共にガッパは粉塵と化した。
―
翌朝。
クリッド達はリンに礼を言い、シュドリオを連れて先に帰って行った。
リオは直前まで「臭すぎて死ぬ」から自分だけリン達と帰るとごねたが、連行する身柄の重要性と凶暴性からパーティ最大火力を外す訳には行かない、と強制的に連れて行かれた。
残ったリン達はドワーフ達に歓迎され、楽しい夜を明かす。当然の様にレイジットもいてローズに何度も怒鳴られながらもリンにくっついて離れなかった。
帰り道。
吊り橋まで来た一行は木陰で少し休憩を取る事にした。
「ここまで来たら後2日の道のりだ。だが気を抜かないでね」
「何かあるの?」
リュードがリンに聞き返す。
「『赤のリーニー』をやったんだ。いつどこで襲われてもおかしくはない。これまで以上に依頼時だけでなく、行き帰りやプライベートなどいつでも注意が必要だ」
「確かに」
一同が納得したその時。
リンにもたれ掛かって休んでいたレイジットが突然ガバっとリンに抱き付いた。
「うわっちょっ」
「てめえ、ほんといい加減に……」
とそこでローズが言葉を止めた。レイジットの視線がリンではなく自分の後ろに向いている事に気付いたからだ。
「リリリ、リン様、皆さん、あれ! あれぇぇ」
皆の視線がレイジットの指先が指す方向へと向けられた。
「ヌ、ヌール!」
ローズのほんの数メートル後ろで草を食む魔物。レイジットはリンから離れ、抜き足差し足で忍び寄る。
両腕を広げて、一気に掴んだ! と思った瞬間、ヌールはフワフワとレイジットの前方へと逃げていた。
「う、ぐぐ」
それから数度トライしたが同じ様に逃げられる。
「もう諦めたら?」
「レイジット、もうやめなさい」
リンとハンネの忠告にも聞く耳持たず、
「いやそういう訳にはいかへん。これはウチの初仕事や! こんの~~待たんかぁぁい」
「あ、おい!」
レイジットがどんどん森の奥へと向かい、急いでその後を追い掛ける。リン以外は渋々といった感じだったが自分達の依頼は彼女なくしては達成しない。
不意に彼らの視界から彼女が消えた、と同時に、
「ふんぎゃあああああぁぁぁ……」
耳をつんざく悲鳴が轟き、フェイドアウトして消えていった。
皆、一瞬顔を見合わせ、大慌てで姿が消えた所へ走る。
「リン! 何かいる!」
リュードが走りながら弓を構え出した。
レイジットが消えた場所に辿り着くと同時に皆、息を呑む。
「な、何だこいつ!」
「植物? いや魔物か?」
「これは……やはり!」
「知ってるのかハンネ」
「ええ、これは……」
それは大きな花びらの中心に巨大な口を持った、一見魔物の様な巨大肉食生物、ズールだった。三階建ての建物程の背丈を持つ。
見た目は限りなく植物に近い。
足は無く、根元にある短い数万の触手で移動する事が出来、長く太い蔦を腕の様ににょろにょろと何本も蠢かせている。
口の下には茎というよりは喉に近いものがあり、更にその下は腹の様に膨らんでいた。
その喉の様な部分に膨らみがあり、時折ニョキっと手や足の様な形で飛び出しながらゆっくりと腹の方へと下降していた。
ギットが目を剥き、ある想像に至る。いや、全員同じ事を考えていた。
「おいおい……ひょっとして……」
「ズールは蔦の先にあるフワフワの種子の塊を餌にして、近付く動物や魔物を誘き寄せて食べるの」
「レイジットはまさにそれに釣られたって訳だね」
ハンネの説明に皆、納得がいった。
「ヌールはきっと、あの蔦の先だけを見た昔の人が考えたものだったのね。マスドゥフ氏はそうかもと考えていてはっきりして欲しかったみたいだわ」
「ズールとヌールの話はそこまでだ。まずは彼女を助けてあげよう。魔物でないものを殺すのは可哀想だけど」
スラリと剣を抜き、リンがズールに近付いていく。新たな餌の登場にズールが歓喜し、巨大な口を開いてリンを襲う!
身を沈め、前へと素早く移動、目の無いズールが目標を見失ったその一瞬。
リンの剣が横に払われ、レイジットと思しき膨らみの下がズレていく。地面に落ちる直前でリンがキャッチした。
一部を切り取られたズールは痛みでのたうち回ろうとするが、レオによって一撃の元に葬られた。
ドサリ。
膨らみからゆっくりレイジットを救出した。
「ブッハ~~ッ! 死ぬか思たぁぁ」
レイジットは体中が粘液でベトベトになりながら内股で座り込んだ。
「大丈夫かい?」
「う……リン様……リン様ぁ」
見る見る大粒の涙が溢れ出し、
「ごわがっだよおおぉぉぉ」
泣き喚きながらリンに抱き付いた。同時にリンの鼻を突き刺す異臭!
「ぐ……う……く、くっっっさぁぁぁ!」
「……へ?」
レイジットが顔を離し、リンと至近距離で向き合う。リンは瞬時に顔を背ける。照れたからではない。
「うっ!」
「え? え?」
鼻を摘みながらシャオが怪訝な表情のレイジットの顔中の粘液をタオルで拭き取った。
同時に復活するレイジットの鼻呼吸。
そして再び彼女の悲鳴がこだました。
「くっ……くっっっっっさあああああああぁぁぁぁあ!!」
クエスト失敗冒険者を救出せよ(完)
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