クエスト失敗冒険者を救出せよ(6)

「かなり、多いね」


 敵影を見ながらリュードがクリッドに呟く。


「ああ。昨日攻めて来た時よりも明らかに多い。きっと今日で決めるつもりだろう」


 2人とも数はさして気にならない様だったが、注意深く敵の動きを観察する。


 そして遂にその男が現れた。


 大型の魔物、ガッパ。

 それに引けを取らない超巨体の男。

 手には一振りで何十の首が飛ぼうかという程の巨大な斧を持っている。


「アイツは何者だ?」

「頭だろうね。あれはヤバそうだ」


 リュードに頷きながらそう答えたクリッドはドワーフ達に向かって叫んだ。


「皆、洞窟へ避難して下さい!」


 それを聞いた、長い髭の年老いたドワーフが不思議そうな顔でクリッドに聞き返した。


「お主らだけで大丈夫か? 予定じゃワシらも戦いに参加する話だったが」

「フッフッフ。お任せ下さい、長老。頼もしい友人達が加勢に来てくれました。今こそ『湖の畔』、『愛と平和』両ギルドがひとつになる時!」


 聞いていたシャオが思わず噴き出し、傍にいたリオに、


「クリッド、相変わらず演説好きですね」

「ほんと、すぐ熱くなって……要するに単純なのよね。まあ単純だけどバカではないし、イイ奴なんだけど」

「ウフフ。そう思えるの、素敵だと思いますよ」


 クリッドが声を張り上げてリュード達に叫ぶ。


「いいかぁ、お前達! ここが正念場ぞ! 正義は我らに有りィィ!」


 傍で突然叫ばれたギットは耳に手をやり、叫び返す。


「うるっせえぞ、クソガキ!」


 いきり立つギットを宥めつつ、リュードも顔を顰めながら、


「クリッド、僕達全員で8人しかいないんだからそんなに全力で叫ばなくても大丈夫だよ」

「あ、ああ。そうか。つい興奮しちまった」


 リュードは鼻からため息を吐きながらも、


「今はこちらの司令塔がいない。ここはクリッドに任せるからね」

「心得た。とはいえ普通ならリオの一発で終わるんだが」


 皆の視線がリオに向かう。

 リオは物怖じせず、皆に手を振ってニコリと笑う。自らの魔霊スキルの威力に絶対の自信がある証拠でもあった。



「うおおおおおおい、貴様らぁぁぁ」


 ガッパに乗った明らかに大将格の男が、洞窟の隅々まで聞こえそうな大声で叫び出した。


「よく聞け小童共! 俺が『赤のリーニー』ニツィエ領幹部シュドリオ様だぁぁ!」


 リンやライラの様にギルド間で情報のやり取りをしているとそういった名前も入って来はするのだが普通に生活している分にはまずそんな名前は彼らには届かない。

 従って今ここでシュドリオの名前を知っている者はドワーフ側の中にはいなかった。


「奴らビビってグゥの音も出ねえようですぜ?」

「さすが頭!」

「グハハハハ! いいか貴様ら。今投降するなら皆殺しにしておいてやる。あくまで抵抗するというなら貴様らの街や村まで行ってそこの奴らも皆殺しだぁぁ!」

「うおお頭ぁ! 選択肢が強烈ぅぅ!」

「いいぞ―――!」


 熱狂している『赤のリーニー』を前に、クリッドは腕を組んで立っていた。リュードは首を傾げて、


「ねえ、クリッド。君に指揮を任しているし口を挟む気は無いんだけど……どうして今攻撃しないんだい?」

「ん? 今、敵の大将が演説している。聞かなきゃ卑怯だろう」


 リュードが頭を抱える。

 リオはフフッと笑い、


「クリッド。あーゆうのは有無を言わさずブチのめせばいいのよ」

「む。そうか! よし、リオはあの大将を中心に広範囲の爆撃準備開始。他の奴らはあの大将を中心とした20メートル範囲内に出来るだけ敵を引きつけろ」

「敵の引きつけなら俺に任せろ!」


 クリッドが言い終わるなり、笑いながらギットが飛び出して行った。

 一方のトントも負けてはいない。


「どんだけ引き寄せるか勝負じゃクソジジイ」

「負けたらギットントンに改名しろよ」


 ギットの強烈な打撃攻撃が響き渡るとある一定範囲のならず者達がギットへと刃を向ける。ギットのノーマルスキル『挑発』だ。


 トントは神霊術士だけにギットの言う様に守備力が低く、本来、盾役には向いていない。だがそこは神霊術士、豊富な自己性能向上セルフバフスキルをいくつも持っており、生まれつきの打たれ強さも相まって有能な盾役として機能していた。


「2人とも流石だな」


 クリッドがたまにバフスキルをギットに掛けながら満足そうに頷く。


「なんだかんだ言ってお互いの相手を邪魔しない様に最大限引きつけているね。お陰でこっちは漏れた奴を狙うだけで……すむ!」


 リュードの複数射撃スキルで『挑発』に漏れた男達を片っ端から射抜く。


 レオとベンティーニの2人も大剣を振り回して相手を薙ぎ倒す。


「クリッド!」


 リオの声が響く。

 長年パーティを組んでいる彼らにはそれだけでリオの準備が整ったという事が伝わるのだ。

 クリッドが大声で前線のギットとトントに叫ぶ。


「トント! ギット! 退却!」


 2人も慣れたもの、すぐ様その場所から回避行動を取り、リオの魔霊スキルの範囲の外へと脱出する。


「行くわよぉぉ!『カオスフレイムの大噴火』!」


 魔霊術士リオの希少スキルが発動する。


 刹那、爆音と共にシュドリオを中心とした半径20メートルの円内に噴火の如き爆発が起こる。


 発動に準備時間が15秒必要である為、リオが1人で敵に立ち向かう時には殆ど使えないがこの様なパーティ戦であれば問題は無い。


 発動してしまえば食らった相手は必ず死ぬ、まさに必殺の魔霊スキルだった。


 その筈だった。


 だが煙の中から現れたシュドリオとガッパには殆どダメージを受けた様子が見られなかった。


「うおおおお……ゴホッゴホッゴホッ! し、死ぬぅぅ」


 その場にいた全員がギョッとした。

 何よりリオが最も驚いた。


 発動時間は僅か3秒だが今までにこれを食らって生き延びたものなど人間は勿論、魔物であっても居なかったのだ。


「な、何、あいつ。人間なの?」


 だがクリッドは冷静だった。


「ギット、トント。雑魚は殆ど消えた。正攻法で行く。レオ、ベンティーニも続き、ガッパを狙え。シャオと俺は支援に集中、リュードとリオはさっき討ち漏らした奴らを片付けてからシュドリオを狙え!」



 ―

 戦闘が始まってほんの数十秒の出来事だった。森方向から戦闘を見ていたリンとローズは目を丸くした。


「おいおいマジかよ、あの野郎。リオのスキルで死ななかったぞ」

「ヤバそうだね。俺たちも行こう」

「あのぅ、ものすご言いにくいんやけど……」

「ああ、そうか」


 レイジットはFランクの冒険者だ。いわば素人同然であり、この様な危険な戦闘に参加させてはならない。

 ハンネにも殆ど体力が残っていない。


(ここから動かすのは難しそうだな)


 そう判断する。

 と言ってこの戦局で貴重な戦力となれるリンとローズが参加しない訳にはいかないのも事実だった。


「よし。俺達だけで行く。君達はここで隠れて待っているんだ」

「う……ウチ、頑張る」

「ああ、有難う」

「リン様も頑張ってね」

「うん」

「ローズちゃんも頑張って!」

「ったく調子狂うなぁ。任せとけ」


 レイとハンネを森の中に残し、リンとローズはクリッドとは正反対の方向からシュドリオに向かって行った。

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