第3話 ゴブリン
ジャンはナーシャが帰ってから少し気落ちしながらも羊飼いの仕事を毎日頑張っています。
手紙を書くとは言ったものの、紙は中々高く、ジャンの貯めているお小遣いではまだ買えません。
なので一生懸命に仕事を頑張るジャン。
それでも紙を買えるかわからないので、ジャンは薬草採取をする事に決めました。
薬草は、村の薬屋で買い取ってくれます。
なのでジャンは羊達を放牧している間に薬草を集めようと、父親のゼルゴ、キュートとギンと共に山の中に入ります。
流石に子供だけで山の中に入るのは許してもらえず、ゼルゴがついてきてくれる事になりました。
ゼルゴはいつも狩猟で山の中に入っているので、慣れた様子で山の中を進みます。
しばらく進むと、薬草が沢山生い茂った場所が見つかりました。
「ジャン、全部は摘まずに少し残しておけ」
父ゼルゴの言葉にジャンは頷きます。
全部採ると、その後薬草が生えなくなる事はジャンも知っていました。
なので全部は採らずに採取していきます。
ジャンが薬草摘みに夢中になっていると、ガサガサと草の茂みが音をたてます。
「ジャン、俺の後ろ来い!!」
言われた通り剣を構えているゼルゴの後ろに隠れていると、草の茂みから緑色の肌をしてこん棒を持った二足歩行のモンスターが出てきました。
「なっ!? ゴブリンだと!? 何故この山に!?」
ゼルゴは驚きながらもゴブリンに向けて剣を振りかぶります。
「ギャアアアッ!!」
悲鳴をあげたゴブリンは動かなくなりました。
ジャンはホッと溜息を吐いて安心しましたが、ゼルゴの表情は険しいままです。
「···まずいな。ゴブリンは単体では行動しない。そうなると、今の仲間の悲鳴を聴いてゴブリン共がやって来る。ジャン、村に行って村長に知らせてくれ!!」
「と、父さんは?」
「俺はゴブリンをここで食い止める。早く行け!!」
一瞬躊躇いながらもジャンは来た道を戻ろうとします。
しかし、既にゴブリンが待ち構えていました。
周囲には十体以上のゴブリンが。
「ちっ、囲まれたか!! ジャン、俺が隙を作っている間に村へと行くんだ!!」
ゼルゴが一匹のゴブリンに向かって駆けていき、剣を横に振り、ゴブリンの首を切り落とします。
「今だ、ジャン!!」
ゼルゴが一匹のゴブリンを倒した事により道ができました。
しかし、何体ものゴブリンを見てジャンはその場で腰を抜かして動けません。
そんなジャンに向かって二体のゴブリンが襲いかかります。
「くっ、ジャン逃げろ!! 逃げるんだ!!」
ゼルゴは別のゴブリンの相手をしていて助けにいけません。
二体のゴブリンはもう目の前です。
もう駄目だとジャンは目を瞑りましたが、数秒経ってもゴブリンは襲ってきません。
恐る恐る目を開けると、ギンが一体のゴブリンの首に噛みついていました。
もう一体のゴブリンの顔をキュートが引っ掻いています。
「ジャンには手出しさせないにゃ!!」
キュートがゴブリンの顔を引っ掻いている内にギンが、残るゴブリン達に噛みついて倒していきます。
キュートが相手をしていたゴブリンはゼルゴが胸を刺してとどめを刺しました。
「···流石はフェンリルだな。ゴブリンなんて敵じゃないか」
ゼルゴはジャンが無事だった事に安心しながらも、ギンの強さに驚いています。
「ジャン。ギンとキュートに感謝しないとな。ギンとキュートが居なかったら今頃お前は死んでいたぞ?」
ジャンは父ゼルゴの言葉に身体を震わせます。
「ジャン、大丈夫かにゃ? どこも怪我していないかにゃ?」
「クゥゥーン」
キュートとギンが心配そうにジャンに近付きます。
ジャンはそんな二匹を抱きしめます。
「ありがとう。キュートとギンのおかげで怪我なんてしなかったよ」
余程怖かったのでしょう。
震えながらキュートとギンを抱きしめます。
そんなジャンをキュートとギンは心配そうに見つめています。
「ジャン、村に行くぞ。この事を村長に知らせなければ」
「う、うん。あ、あれ? 立てない? な、何で?」
腰を抜かしたジャンは未だ立てないようです。
ゼルゴはそんなジャンを背負い村へと向かいます。
「父さん、ごめんね」
泣きながらジャンは謝ります。
「気にするな。お前の年なら怖いのは当たり前だ」
ジャンは優しく語りかけるゼルゴの背中に顔を埋めます。
「キュート、ギン、ありがとう。お前達は息子の命の恩人だ」
キュートはゼルゴの言葉に胸を張り、ギンは嬉しそうに尻尾を振ります。
村へとやって来たゼルゴはすぐにゴブリンの事を村長であるラダルに伝えました。
「な、なんと!? それが本当ならゴブリンの上位種が居るかもしれん」
「ああ、十体もゴブリンが居たんだ。おそらく上位種が居る」
村長は、騎士団の要請をする為に、ここから一番近くの街フィンデに村の若者を向かわせた。
ゼルゴは村の自警団と共に、いつ襲われてもいいように守りを固めます。
ジャンの母ミティアも村に降りてきました。
家は村から離れているので、守りやすいようにゼルゴが連れてきたのです。
普通のゴブリンの知能は低いのですが、上位種になると、頭を使うようになります。
上位種が居るとしたら、おそらく襲ってくるのは夜だとゼルゴは考え、自警団と共に待ち構えます。
空が暗くなった後、その予想は的中しました。
ゴブリンの大群が山から降りてきたのです。
遠くからでも百体以上いるのがわかります。
ゼルゴと自警団は、冷や汗をかきながら弓を構えます。
村の存亡を賭けた戦いが始まりました。
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