その後

「それではいよいよ各賞の発表です。まずは最優秀賞編曲賞は……」

 

 今日は和夫の応募したコンクールの結果が発表される日だ。結果はどうあれ、私たちの未来はもう決まっていた。次々と流れる最終審査に残った曲。各賞の発表が始まっても、和夫の曲はなかなか紹介されなかった。


「もしかして最優秀賞だったりして」


 おどけてみせた私に和夫は何も応えない。


「次に最優秀作詞賞は……」


「それから最優秀作曲賞は……」


「そして、最優秀ボーカル賞は、DREAMERの『君と』です」


「カズ! 聞いた? ボーカル賞だって!」


 ラジオからアコースティックギターの音色が流れ、やがて和夫の声が被さった。少しくぐもって聞こえるその声はまるで遠く離れた世界から流れてくるようで、私は目いっぱいボリュームを上げて耳を傾けた。ちゃんと聞くのはこれが初めてだ。


 

ひだまりで君の長い髪が

僕の頬をかすめて揺れる

振り向けば愛しい笑顔が

いつもそこにあり続けた


ふたつ同時に追い掛ければ

どちらも失うことになると

絵本で学んだはずなのに

それでも諦めきれなかった


君の笑顔さえあれば

そばにいられさえすれば

何もいらないと思ってた

あの時から僕は

ちっとも変わってないよ

今でも君がいちばんなんだ



泣いたり怒ったり笑ったり

少しも見飽きることのない

君をずっと見ていたい

そう思い続けてきたんだ


決して負けたわけじゃない

夢を諦めたわけじゃない

君を守るという新しい

夢を手に入れたんだよ



君の笑顔さえあれば

そばにいられさえすれば

何もいらないと思ってる

あの時から僕は

ちっとも変わってないよ

今でも君がいちばんなんだ


これからだって僕は

君を困らせるだろう

だから君も僕を困らせて

これからも僕は

君のそばに居続けるよ

だっていちばん愛してるから




「はい、ボーカル賞に輝きましたDREAMERの『君と』でした。透明感あふれる声に心を動かされますね。大切な人に思いを伝えたいんだと思いますけど、ちゃんと届いたでしょうかね」


 私は溢れる涙を両手で拭って二度三度と頷いた。


「でも、僕は思うんですよ。もちろん歌に乗せて感謝や愛を伝えるのは素敵なことでしょうけど、やっぱり目の前にいる人に直接言うべきだって。もしこのラジオを聞いてる人で同じ立場の人がいたら、是非とも行動に移してくださいね。人間、いつ会えなくなるかわかりませんからね」


「ホントそれ」


 私が睨むと、写真の中の和夫は少し困った顔になった気がした。



「尚、非常に残念なことではありますが、ボーカルの村松和夫さんは先日不慮の事故のため逝去されました。もっとこの歌声を聞きたかったですね。心からお悔やみ申し上げます」

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