出会い

 私が和夫と出会ったのはもう七年も前になる。高校卒業後、最初の就職に失敗した私は職を転々としていた。二十歳を過ぎてお酒を覚え、趣味と実益を兼ねてお気に入りの定食屋兼居酒屋でアルバイトを始めた半年後に、和夫がそこの厨房で働き始めた。

 和夫の第一印象は最悪に近かった。見た目は地味だし、覇気はないし、ボソボソと喋るからうまく聞き取れなくて、仕事に支障をきたすと文句を言ったくらいだ。


 そんな和夫の見方が変わったのは、初めて彼の作った賄いを食べた時だった。残り物のシンプルな丼が、それまで食べたどんな賄いよりも美味しかった。現金なもので、それからはできるだけ和夫とシフトを合わせるようにした。そうなると自然と会話も増え、やがて彼がバンド活動をしていると知った。

 「凄いね、応援するよ!」と言いつつ、ライブを見に行ったのは半ば冷やかしだった。名前からして地味の代表とも言える和夫がバンドのボーカルだなどということは全く信じられなかったし、笑ってやろうくらいの意地悪な気持ちがあった。


 地下の古びたライブハウスは意外にも盛況で、ロックやらヘビメタやら、うまいかどうかもわからない雑多なバンドが入れ代わり立ち代わり演奏をした。騒音に近い音の洪水に来たことを後悔し始めた頃、やっと和夫が現れた。

 アコースティックギターが鳴り出すと、嘘のように客席が静まり返った。その時の和夫の姿を私は今も鮮明に思い出すことができる。彼の口からメロディが流れ出た途端、私の体に大袈裟でなく電流が流れ、息をすることすら忘れてしまった。時に陽だまりの縁側のような、時に真夏の噴水のしぶきのような、和夫の声はまるで天使のそれだったから。

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