天使からのメッセージ
いとうみこと
裏切り
「それってどういうこと? 私との約束破ったの? バンドは今年いっぱいでやめるって言ったよね?」
久し振りにふたりの休みが合った月曜の午後、気晴らしに訪れたカフェで和夫から聞かされたのは、ラジオ局主催のコンクールで最終審査に残ったという知らせだった。思えばここ数日の和夫は挙動不審だった。何かを言いかけてはやめるを繰り返していたのはこのことだったのか。よそのテーブルの客が何人か振り向いたが、私の怒りは収まらなかった。
「冗談じゃないわよ。音楽なんて趣味でいいじゃない。なんで今更そんなことするのよ。ねえ、もし通ったらどうするの? CD出してデビューするの? 今更この年で歌手デビュー? 売れるかどうかもわからないのに?」
「しないよ」
うつむいたまま和夫が呟いた。
「どうだか」
「しない。約束は守る。アヤの言うとおりにするよ」
「ちょっと待ってよ、それじゃまるで私が……」
遠くの店員と目が合って、私は口を閉じた。和夫はただでさえ丸まった背中をますます丸めている。それとなくこちらを窺う多くの視線の中で、私は汗をかいたグラスの氷を口に放り込むと、殊更に音を立てて噛み砕いた。
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