第30話

「君が夜鶴くんか? そういえば、首相官邸で一度会っていたんだね。死んでいないのが意外だけど」

 谷多部が手ぶらで静かに言った。その声が私に決定的な死を知らせる。

「自由な恋愛したっていいだろ?!」

 津田沼が叫んでいた。

「そうだ。人は自由じゃなきゃ面白くない」

 田場さんが優しく言った。

 私と島田が目配せをした。

 意味は、奈々川さんと逃げるのには、一瞬か少ない時間で数体のノウハウを倒さなければならない。ということだ。

 島田が嬉しがった顔をした。

 眩暈が酷いはずなのに、私の腕がベレッタを静かにノウハウを狙っていたかと思うと。ノウハウたちの発砲音と私たちの発砲音だけで、空間や風雨が震えだしていた。

 私はあっという間に、五体のノウハウを破壊し、津田沼の手榴弾が炸裂。田場さんと島田は銃を乱射していた。

 奈々川さんが耳を塞いで地面に蹲った。

 重火器と重火器の火花で、谷多部の顔形が見える。

 人を見下した顔ではなく。人を人として見ていない。そんな感じの目だった。

「おらー! 次だ! 次だ!」

 吠える島田の胸に弾が数発当たった。

 津田沼は腹を抱えて倒れた。

 田場さんは血を流しながら銃を撃った。

 ノウハウを全て破壊すると、谷多部はにっこりして、

「また、金がかかる」

 そう言って、車の方へと歩きだした。

 派手な黄色のスポーツカーだ。

 私と田場さんは奈々川さんと、死んでしまった津田沼と島田を抱えて、正門を破壊した黒のジープに乗った。

「これで、もう安心だな」

 額から血を流している田場さんが、無傷の私に二カッと笑った。


 病院

 白い空間には、ベットに二人の男が横たわっていた。

 目を瞑っている島田と津田沼の周りに私たちがいる。

「谷津くん。愛していたわ」

 弥生は車椅子から顔を覆って、島田のベットに顔を埋ずめた。嗚咽が室内に響き渡る。

「島田……」

 島田のベットの脇で、俯き加減な私の隣の奈々川さんも静かに泣いていた。

「津田沼。また俺の工場で働いてくれ。……頼む」

 田場さんは頭に包帯を巻いている。島田の隣のベットにいる津田沼の顔を覗いて呟いた。赤いモヒカン頭が今では弱弱しかった。

「どーもー!」

 藤元が元気よく病室に入って来て、通りすがりの看護婦さんに怒られる。

「藤元……二人を生きかえらしてくれ。頼む」

「おっっけー!!」

 早速、藤元は神社でお祓いをする棒を熱心に振り回した。島田と津田沼のベットへと近付きながら、何やらぶつぶつと言いだした。


 すると、見る見る島田と津田沼の体から生気が感じられてきた。

ゆっくりと目を開けた島田が起き上がると、

「谷津くん!!」

 弥生は感激して車椅子から上半身を投げ出して、島田を抱きしめた。

「弥生……。夜鶴…………何とかなったな」

 島田が弥生の頭を撫でながらポツリと言うと、欠伸をした。まるで、死者ではなく熟睡をしていたかのようだ。

「おはよう」

 津田沼も起き出した。

「藤元さん! ありがとうございました!!」

 感動した奈々川さんが、涙を拭きながらビックリするような大声を発した。

 弥生も涙に濡れた顔を藤本に向けて、笑い出した。

「凄いな」

 田場さんも感心して、寝ぼけている津田沼の肩を叩いている。

「たくさん死んだねー。いやー、それほどでも。あ! 今度は首相官邸に行かないといけないんだった」

 藤元が一息入れたいと言って、一階のコーヒーショップに行った。

「なんかさー。今、いつなんだ?」

 島田が弥生に言った。

「昨日から少し経って、今日は三日間後の水曜日の午後よ」

 弥生が優しく言った。

「じゃあ、結婚式はいつ?」

 島田の発言に津田沼も首を傾げて、私と奈々川さんに顔を向ける。

「うーん。早い方がいいと思うから……怪我が治ったらすぐにしたいんだけど、奈々川さん? いいかな?」

「ええ、勿論いいですよ!」

「やったー!!」

 私はふらふらの体を気にせずに大喜び。

 島田たちも拍手をしていた。

 病室には私たちしかいなかった……。


 結婚式場は晴れやかな白い色の建物。ここはB区でも有名な建物のようだ。お城のような外観をして、中は煌びやかな内装。中央の広い階段は、そのまま神父の笑顔へと繋がる。

「これより、新郎。新婦の契りを始める。病める時、楽しい時も、悔いる時も、逝くときも二人とだけの道を歩み……」

 私と奈々川さんは、真っ白のスーツとドレスを着ている。

 奈々川さんの手には雛菊のブーケ。

 島田たちは広い客席に着いている。

 島田たちは武器を巧妙に隠している。

 けれども、私たちは気にしない。これくらいのことでは……。

「新郎。新婦。誓いのキスを」

 私と奈々川さんがキスをした。


「やっほー! B区のど真ん中で結婚式を挙げたぞー!」

 島田だ。

 私たちはハネムーンでの云話事シーサイド……一度、奈々川さんを連れている。そこへと向かう。二人だけで……。

 白い華奢な車は、二人を乗せて、ゆっくりと結婚式場から走る。

 ブーケは津田沼が受け取った。

「おめでとー!」

 田場さんだ。

「夜っちゃん。俺…………幸せになる」

 ブーケを受けた津田沼が満面の笑みで言った?


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