第31話 ショッピング

 テレビ画面では云話事町TVがやっていた。

「おはようッス!! 久し振りっス!! 云話事町TVッス!!」

 いつもの住宅街を背に美人のアナウンサーが吠えた。

「昨日は大変だった! 藤元さんです!」

「ええ。大変だったですよ。本当に……」

 藤元がカメラのドアップを受ける。……少し鼻毛が伸びている。

「首相官邸に行ったら、みんな死んでて……本当にここが首相官邸なのかと、最初解らなかったッスよ」

「たまには、ですけど、頑張ってくれたんですね。藤元さんに拍手を……」

 美人のアナウンサーが一人だけで力強く拍手を送った。

「ところで……今日の天気は?」

 美人のアナウンサーは気を取り直して、マイクを藤元に向ける。

「今日は快晴にしたいですね。僕……疲れていますから……」

 藤元は両手を何度か叩く。

 すると、曇り空の雲があっという間に散って行った。

「みなさん! 今日は晴れるでしょう!」


 ここは、A区。

「公さん。スケッシーとラーメン屋へ行きますね」

 晴美さんだ。ここは、私の部屋。

「ああ、でも、一人じゃまだ危ない」

 私は晴美さんと手を取り合って、105号室を後にする。

 仕事も再開して、田場さんも大喜びだ。

 スリル好きな島田は相変わらずに、銃と弾薬をたくさん買って。

 津田沼も日の丸弁当片手に仕事に精をだす。

 幸運にも戦争は起きずに。

いつもの日常だ。


「そうか……晴美は夜鶴くんと…………」

 脂肪を揺らした奈々川首相がポツリと言った。

 薄暗い書斎で、二人が話している。

「ええ……晴美さんにはまいりましたよ。僕のフィアンセは……何というか、扱いにくいですね……。これから、ちょっと野暮用がでてきました。きっと、晴美さんも考え直しますよ。本当に結婚しないといけない人は誰かをね」

 谷多部 雷蔵が白い歯を見せる。その表情はどこか欠落しているようだ。そう……心にあるべきものが無いかのようだ。

「……君に期待しているよ。」

 奈々川首相は、所々薄汚れた書斎で手を机に置き静かに言った。


「どう。今度の日曜日はお互いに仕事休んでさ。ショッピングに行こうや。それと、奈々川さんも呼んでーー」

 島田だ。

「ああ。いいけれど。それと、もう奈々川さんは、夜鶴って名字になったんだけど。……つい最近」

 私は後ろのスケッシーと遊んでいる晴美さんを眺める。

 電話越しにも島田は浮かれているようだ。なにせB区で結婚式を挙げ、首相官邸を重火器でボロボロにしたのだから。勝利とはこんなにもいいものだとは!

「あっははー。悪い悪い。そうだったんだよな。晴美さんその後はどう?」

「いい感じだ。前より明るくなった」

 スケッシーの嬉しそうな吠え声は耳がキンキンとした。

「スケッシー! 凄い!」

 見ると、スケッシーがじゃれながら、メス犬を誘う求愛行動の宙返りをしていた。

「あ、そうそう。しかしなー。ハイブラウシティ・Bはまだ進行しているんだよな。もう一回首相官邸に行って、弾丸を撒き散らすか?」

 島田が電話越しにも解る不敵な笑いをした。

「うーん。……いや、国会に晴美さんが話に行くって。それからどうなるかだな」

「国会かー。俺的にはやっぱり銃を使いたいぜー」

「ああ。でも、なるだけ穏便にしていってもいいんじゃないか? 結構時間も掛かることだし……。それに、奈々川首相と矢多部もどっかに居て……今頃作戦会議なんじゃないかな?  

これからどうするかって?」

「あははははー-。いいねーーー」

 電話が終わる。仕事へ行こう。

 

 私は晴美さんと仲良くキスをしてから愛車へと歩く。

 駐車上の愛車は目立つ傷がなくなりピカピカの光を放っていた。晴美さんが特別にお金を出してくれたのだ。それと、島田の車と弥生の足も治った。

 夜風が冷たくなってきた。けれど、車の窓を開け放って、夜の云話事町を走る。私はこの町が好きになった。今、幸せ中だ。

「お、今日も頑張れ!」

 田場さんが受付にいた。

「夜鶴さん。凄い。B区の首相官邸に殴りこんで、奈々川お嬢様と結婚したの?」

 受付嬢が感心して笑い出した。

「ああ」

「俺も参戦したぜ」

 田場さんだ。

 着替えのためにロッカールームへと行くと、島田が着替えを済まして今出るところだった。

「夜っ鶴―! 楽しかったなー!」

「ああ」

 私はB区の連中がひしめき合うロッカーで着替える。勿論、S&W500はズボンのホルスターの中にある。島田も武器を携帯している。

 何だかんだで、私たちの活躍の一部は云話事町TVで放送されて、世間を騒がしているようだ。藤元も関係者になっている。

 これがA区の底力なのだ。

 B区にいる田場さんと津田沼の力も借りたけれど。

 後はハイブラウシティ・Bだけだ。でも、きっと……そう、きっとだ。きっと、なんとかなる。

作業中もロッカールームでもB区の連中は大人しかった。

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