第6話

「ああ。夜ちゃん。島ちゃん。最近の都市開発プロジェクトの実体って知ってる? ただ単にA区とB区の治安の悪いのはそっちのけで、アンドロイド達にB区だけを急激に発展させているんだ」

 津田沼は新聞が好きだった。たまに政治などの世間に起きている話を持ってくるのだ。


「ふーん、やっぱりな。ま、いいんじゃね。俺たちには関係ないようだし」

 島田は世間で何が起きていようと生活が第一だったようだ。それもそのはず。A区にはあまり仕事がない。

「B区だけってわけか」

 私も云話事町TVで昔放送されていたので、世間に何が起きているのかは少しは知っているのだが……私も生活面の方で頭が一杯だった。

「お、その自炊弁当なかなかの出来じゃねぇ?」

 島田が津田沼の弁当を茶化した。見ると、いつもの日の丸弁当の脇に目玉焼きが顔を出していた。


「ふふ、お前、自炊は諦めて結婚したら?」

 私の一言に、小太りの津田沼はメガネを持ち上げる。

「結婚かー。俺はこれはこれで好きなんだがなー。日の丸弁当は仕事へのやる気を醸し出し……目玉焼きは日の丸に似ているし……」

「まさか、結婚しても奥さんにそれ作らせるとか?」

 島田が愛妻弁当のウインナーを箸で持ち、津田沼に突きだした。

「うーん? そうかも知れない」

「あはははっ、仕事一筋だな」

 私はさずがに吹き出し、コンビニ弁当の残りを食べた。


「じゃあ。お疲れ」

 島田がベレッタを片手に持って、車のハンドルを握る。 

 私は島田の肩を叩いてから愛車へと歩くと、津田沼が血相変えて走って来た。

「B区の奴がさっき撃たれて死んだって!」

 津田沼が不安げな声で捲くし立てる。

「でも、俺たち関係ないから。きっと、喧嘩か事故さ」

 私は気にせずに愛車のドアを閉めた。


 火曜日 朝の8時。

「おはっよーございます! 云話事町TVでーす!」

 美人のアナウンサーが元気よく話しだす。

「今日は映画ドラゴンハンターライオンに出ていたライオンのライライちゃん(9才)のインタビューです!」

 美人のアナウンサーは住宅街を背に巨大なライオンにマイクを向ける。

「ガオーン!」

「スタントマンなしでも、人を食べなかったライライちゃんに拍手を!」

 テレビは賑やかだ……。

「特殊撮影……じゃなかったんだな……」

 私もその映画を観たが……実物だったなんて……。

 部屋から朝食を取らずにゴミ袋を持って外へと出ると、島田の部屋へと行く。奥さんがいるのに、どうして私が島田の分のゴミを捨てるのかというと、島田の奥さんはもともと足が悪いのだ。その上、引っ越ししてきた時に大きめの冷蔵庫の下敷きになってしまった。


「弥生さん。夜鶴です」

 玄関をノックすると弥生が出てきた。赤い髪をしていて、カールが無数にある。中々の美人である。

「あら、夜鶴さん。お早う。ゴミお願いね」

 弥生はそう言うと、車椅子をキーコキーコと器用に回し、台所から大きなゴミ袋を膝に載せてきた。

「今日もゲーセン」

 水色のブラウスにバラの模様が刺繍してある。確か刺繍が趣味なのだ。

「ええ。島田よりはハイスコアがだせるので、今日は170点を目指そうかと……」

「ハハッ、頑張ってね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る