第5話
肉は牛肉がメインだ。
たまに豚肉や鶏肉が流れてくる時もある。
島田の隣へと行くと。
「あいつ。ぶっ飛ばしてやろうか!」
茶髪で長身の島田が吠えている。均整のとれた顔をしているが、左の目元に青い染みがある。
「大丈夫か?」
肉が均等にベルトコンベアーを流れ、私と島田は慣れた手の動きで肉をシューターへと入れながら互いに顔を見合った。
「ああ。車も無事だ。けど、今度あいつを見かけたら……銃だな」
「ははっ」
「そりゃそうと。好きな人とか特別な人とか……見つけたら? もう結婚してもいい年齢だし」
島田が唐突に言った。その顔は確かに好奇心が滲み出ている。
私は少し考えた。確かに結婚が出来る年齢を満たしているが、かなり深刻な経済的な問題を抱えているのだ。
「いや、今はいい」
私は金のない男だ。
「俺も結婚した時は、すぐに奥さんにも銃を持たせたぜ。お前もそうすればいいんじゃないか?そうすれば安心だし」
島田が珍しい鶏肉をシューターへと入れる。
「俺にはそんな度胸は無いよ。それに、好きな人ならサラリーマン時代にいたさ。多分、幸せになっているはずだし」
「なら、今からでも遅くはない! 確認するために明日の火曜日に会社へゴーだ!」
島田は片手で肉を取り、片手で遥か遠くの会社があるであろうところに向かって人差し指を向けた。
「あー……やっぱりいいや。明日はゲーセンさ。恋愛よりは安全な刺激的体験をしたいのさ」
私は頭を掻いた。
「つまんない人生だって、俺は思うぞ。やっぱりスリルはあると人生楽しいぞ」
「それはそうだ。けど、なんかこう……。B区の奴らに殺されたら奥さんが可哀そうだし。仕事中だってやばい時あるだろ」
「それでも、結婚するから楽しいんじゃないか?」
田場さんが近くを通る。
「こら、私語は慎め。仕事中だろ。けど、スリルはいいな。俺も好きだぜ。奥さんには奮発してロケットランチャーを誕生日にプレゼントしたんだ。そしたら、喜んでくれて」
田場は35歳の妻帯者で、子供が三人。
がっしりしている体つきの赤いモヒカン頭。怒り出すとそのまま怖い顔になる顔だった。
「でしょー。田場さん。俺も子供欲しいな」
休憩時間は少し緊張してしまう。B区の奴らがほとんどだからだ。休憩所は肉の仕分け室の更に奥。食堂兼休憩所になっていて結構広いのだ。
「あいつがいたら、俺。キレるぞ」
島田が自販機から缶コーヒーを二本買い。私に一本渡した。
「ありがとう。ここにはいないさ。だって、見た時あるのか? そいつ?」
「ない……」
テーブルに着くと、私は早速コンビニ弁当を広げる。
「またコンビニ弁当か。お前が自炊しているとこ想像できないじゃないか」
「ああ。仕方ないさ」
向こうからB区の津田沼が、私たちを確認するとのこのこと歩いて来た。
私の隣に座ると、
「A区から来た人は大変だね。大金に縁がないけど大敵には縁があって……」
B区の奴だが、小太りでメガネをかけていてなかなかいい奴だ。多少俯き加減な性格の勤勉な顔立ちで、どことなく話しやすい。
「ああ。お前が総理大臣になればいいんじゃないのか?」
島田が愛妻弁当に一礼してから茶化す。
「なりたいんだけどねー。あ、この間の餃子まだ食べてないんだった」
津田沼のメガネがキラリと光る。
「まだなのか」
私が嘆く。不味いが独特の味だった近所のラーメンショップの餃子を、私が津田沼と島田に買ってやったのだ。結構いけるかも知れないのだ。
「あの餃子作った奴。天才じゃねぇ。不味くても食べたくなるんだからさ」
島田と私は食べていた。
「なあ津田沼。確か三年前からの大規模な都市開発って、今でもやってんの? うちの近くも変わるのか?」
島田が愛妻弁当片手に言い出した。何年か前から都市開発プロジェクトと称してB区を発展させたりしているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます