第3話

 いつものテレビゲームをやるため座って本体の準備をした。その間、スケッシーは、テレビに向かって胡坐をしている私の膝の上に寝そべる。

 今日は昨日よりもハイスコアを狙いたい。

 

 テレビ画面に見入っていると、電話がなった。

「もしもし」

 私は電話の受話器を持ち、片手で銃の形をしたコントローラーを操作した。勿論目線はテレビ画面だ。

「やあ。夜鶴くん。明日の火曜日は休んでくれないか」

 工場リーダーの田場さんだ。

「ええ。いいですよ」

 私は二つ返事で答えた。当然目線はテレビ。頭の半分はテレビゲームの(ガンシューティングだ)スコアが埋める。

「その日は丁度ゴミの日ですし」

「そうか。我々夜勤隊の天敵はそういったものだよな」

「ええ。毎回苦労しますよ」

「本当にな。でも、やっぱり給料がいいから仕方のないことだよ。じゃ、よろしくね」

「御疲れ様でした」

 私は電話を切ると、丁度テレビゲームのスコアが昨日よりも少し上がっているところだった。

 しばらくして、ゲームの本体を片づけると、友人の鳥田へと電話した。

「おはようっス」

 鳥田がハイテンションで電話に出た。

「なあ夜鶴。今日は何点だ」

「150点。今いいところなんだ。新記録樹立中さ」

「ふえー。俺なんて95点だぜ。よく取れるなー」

 島田も同じゲームをやっている。島田との付き合いは2年前からだ。私がリストラになって、B区から家賃の安いA区の中央部に来た時に、島田が暴漢と揉め合って銃撃戦になっていた時に命を助けた。今では恩を感じてくれて一番の友人となっている。島田は生粋のA区という場所の住人だった。

 

 年は私と同じく25歳。

「お前も今週の火曜は休みになったのか?」

 私の目線は今やテレビから離れて、膝の上のスケッシーの頭だ。もう今日はこれ以上は暇を潰していても仕方がないと思った。

「へ? 火曜か? 俺は出勤だけど」

「そうか」

「なあ。その日に俺のゴミも捨ててくれないか?」

 島田は私と同じアパートにいた。青緑荘。それが私たちのアパートの名だ。築10年で全体に緑色がかった建物だ。二階建てで一階に私。二階に島田がいる。その他の住人は日勤なのだろう……あまり出会わないようだ。

 

 一階が1Kで二階が2LDKの造りとなっていて。島田は結婚をしているが、子供はいない。妻の名は弥生という。

「ああ。いいよ。丁度暇だし。近所にあるゲームセンターで、ハイスコアを目指していると思うよ」

 島田は笑って、

「いいねー。俺は休日は弥生とゆっくり過ごしたいからな」

 電話を切ると夕方の18時だった。いつもの日課のスケッシーの散歩をしなければ。


 夜はいい。

 9月の半ばの夜は涼しい。 


 日中は27度くらいはあるのだが、夜ではすごしやすい気温になる。

 途中、スケッシーは野良犬のメスの犬とすれ違うとわんわんと吠え尻尾を振る。

 散歩といっても、近所を回るだけ。同じところを3回とぐるぐる。今日はメスの犬には出会わず。スケッシーはがっくりしていた。

「明日は休みか」

 私は近所の十字路の右方向。向かいのコンビニから、奈々川さんから藤元さんの道を歩いて、二本目の電柱で必ずスケッシーが小便をして、先のT字路を左上へとぐるっと回って、淀川さんから山下さんの道を通り、十字路の二本目の電柱でまたぐるっと回り、しばらくするとまた十字路が現れ、それを家の方へとぐるっと回る。それの繰り返しだ。

 距離はまあまあだ。

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