明日と私 107日目(season2)
「…………さき。…………三咲!」
無意識の彼方から、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
それに気づいて頭が目覚めようとして、今度は小さい振動と腕に何かが触れているのを感じていた。
どうやら声の主が、私を起こすために身体を揺らしているらしい。
急いで上半身を動かそうと意識を集中させるが、鉛のように重たい身体は言うことを聞いてくれず、なんとか動こうとしてゆっくりと瞼が開いてくれた。
「……鈴音?」
「良かった。やっと起きた」
視界には、何故か不安げに見つめている恋人の顔が映しだされる。
どうしたのかと身を寄せようとした時には全身の重たさは抜けてくれたが、入れ替わるように倦怠感が一気に広がっていた。
「何かあったの?」
「それはこっちの台詞だよ……。遊びに来たらベッドでずっとうなされてるから、具合でも悪いんじゃないかと思って心配だったんだよ」
「……そっか。ありがとう」
肩を落として息をつく鈴音の言葉に、お礼を短く伝える。
それを聞いて一瞬表情が緩むけれど、すぐに向き直ってまだ私の様子を窺っていた。
「……ねぇ、最近どうしたの? この前泊まった時もなんだか眠りが浅いようだったし、調子悪いなら一度診てもらった方が良いよ?」
私の大切な人が向ける哀しげな瞳がじわじわと胸に刺さり、どうしようと狼狽えてしまいそうになる。
しかし、これ以上迷惑をかけまいと優しく笑って気丈に振るまってみせた。
「ありがとう。最近仕事の疲れが上手く取れてないだけだと思うから、そこまで気にしなくて大丈夫だよ」
「……それなら、いいけど」
私の態度に少し納得のいかない様子をみせるが、それ以上は踏み込もうとはせずこの話はここで打ち切りとなり、今から何をするかの作戦会議へと移ってくれた。
いつもの笑顔に戻ってくれたことに胸を撫で下ろし、自由に動く身体を起こしてから鈴音と一緒に出かける用意を始めていく。
この幸せを再度噛み締めながら、私は少しだけ昔のことを思い出していた。
* * *
本当のことを言うなら、この不調の原因はある程度予測がついている。
最近、私の夢の中に両親が出てくるようになった。
それも育児放棄をしていた時の姿で、何も言わずにこちらをただ下げ荒んでくる。
何故今更になって会わないといけないのかなんて考えたくもないし知りたくもないから、私も彼らの目線に歯向かうように毎回睨み返していた。
ようやく掴んだこの平穏を、邪魔されたくはない。
まして、鈴音にはこのことを知られたくはなかった。
彼女と出会い、触れ合って、一緒に過ごしてきた時間の中で取り戻してきた感情が、今になって親に対する『憎しみ』を生んでいるだなんて、言えるはずがないのだから。
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