明日と私 106日目(season2)

 両親から与えられる『愛情』というものが私にはないということに気づいたのは、物心がついた頃からだった。

 母に幼稚園で描いた絵を見せても、父にその日あったことを話しても、二人はくすりともしない。

 最初はそれが嫌で何度も声をかけたりしたけれど、妹が生まれる前の誕生日に『我儘が過ぎる』という理由から今まであったケーキすらも買ってもらえなくなってしまった。

 その時はどうしてそんなことを言うのか分からず、ただ泣くことしか出来なかったけれど、妹が生まれてからの二人の態度の変化を見て幼心ながらに何かを察するようになる。

 

 私は……二人にとって……どうでも良い存在なんだ。


 それに気づいてからは両親に期待をすることを止め、追い出されないだけがせめてもの救いとして部屋の隅に閉じ篭もるようになる。

 無視をされても、妹と同じ待遇を受けれなくても、児相からの通報を受けても、私たちは偽りの家族を演じ続けていた。

 今になって思えば逃げるという選択肢もあったけれど当時はそこまで計算高く生きる余裕はなく、何より私のことを姉と呼んでついてくる妹のことを見捨てることができなかった。

 そして月日は流れ、何も変わることなく高校三年生を迎えると、周りが進路について悩みだすようになる。

 遠巻きにクラスメイト達を眺めながら他人事のように構えていたら、自分の将来も考えるようにと担任から催促され嫌でも向き合わされていた。

 渋々ながら、少しだけこれからの自分の姿を想像してみる。


 そうして真っ先に浮かんだのは、親のような大人が二人並んで私を蔑むような視線を送る姿だった。



 ──なんだか、疲れたな。


 

 ずっと抑えていた感情が、煮えたぎるように沸々と湧き上がってくる。

 けれど、この気持ちをどうすればいいのか、ぶつける手段すら私は知らない。

 そんな自分が唯一出来たのは、物理的に距離を取ることだけだった。

 離れて働きに出ることを伝えても二人は相変わらず無表情で、引越し日になっても見送りには妹しか来ない。

 けれど、下手に何かをされるよりかはよっぽどマシだった。

 寂しそうにする妹を尻目に、私は実家を出て一人で歩き始めていた。


 その後も色々あったけれど、今は人生において大切なパートナーを見つけて、彼女と一緒に生きていく道を二人で模索している。

 この選択に後悔はなく、あの二人の元で失っていた感情も少しずつ取り戻せている気がしている。

 時間は掛かったけれど私は女性として、一人の人間として生きている実感をようやく得ていた。

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