明日と私 108日目(season2)

 十二月も中頃を過ぎ、街中はクリスマスムード一色に染まっていく。

 それが終わると次はお正月の賑わいが始まるので、この時期はどこを見ていても退屈することはなさそうだった。

 加えて、今年のクリスマスは初めての恋人と過ごすので、どんな所に行こうかと色々考えることが多くなっている。

 しかし、今のところこれといった良いプランが浮かばず、とりあえずケーキの予約は済ませているだけだった。

 これからますます色付くであろう街の様子を工場の駐車場から眺めて、一人寂しく息を吐く。


「どうしたんですか、先輩」


 そこへ、偶然居合わせたであろう小松さんが後ろから声をかけてくる。


「……実は、クリスマスどうするかまだ具体的に決まってなくて」

「あと一週間ほどしかないですけど、それ大丈夫なんですか?」

「あまり良くはない、かも……」


 私たちの恋愛事情を知っている彼女なら話してもいいだろうと思い相談してみると、今の状況に少し呆れているような口調が返ってくる。

 けれど、本心では人の恋路を垣間見ていることを何だか楽しんでいるようだった。

 あの一件以来、彼女の中で何かが吹っ切れたのか以前より明るく振る舞うようになっている。

 その変化は感情の動きに鈍い私でも分かるほどで、職場内でも以前の余所余所しさはなりを潜め、個人的なことを話す機会も増えていた。

 特に、私と鈴音の関係には食い気味になるほどで、休みの日の過ごし方など色々聞いてくる。

 恋愛においては彼女の方が上手なので、自分でも気づかない部分を教えてもらえるのはありがたいけれど、時々好奇な目を向けてくることにはまだ慣れそうになかった。


「まぁ、まだ時間はありますから、色々模索してみてくださいよ。私からも良さそうな所教えますから」

「……お願いするわ」


 それだけ伝えて、小松さんはそそくさと鞄を持って去っていく。

 本当は細かく教えたいのだろうけど、最近は奈緒の店に行くのを生き甲斐にしているみたいで、仕事終わりはそっちを優先している。

 対する奈緒も、毎回文句を言うラインが私に届くけれど、彼女も今までの張り詰めた空気が和らいでいるので、お互いに良い話し相手が見つかったのを嬉しく感じなら、後輩の後ろ姿を見送っていた。


 

 みんな、少しずつ変わっていくのかな。


 

 周りの人たちのことを考えていると、ふとそんなことを思ってしまう。

 奈緒も、小松さんも、そして鈴音も、みんな昔より強くそして優しくなっていた。

 そして、私自身も少しだけど変わり始めている。

 これが全て良い傾向といえるかはまだ分からないけど、過去と比べたら周りの景色が鮮明に受け取れるようになっていた。

 昔はその日を過ごすことだけにしか興味がなかったので、過去の私がいたら今の心境に目を見開くかもしれない。

 それだけの余裕が得られる相手に巡り会えたことに感謝しながら、彼女と過ごす予定を再び考えながら帰路に着こうとしていた。


 

 その瞬間、ポケットに閉まっていたスマホから呼び出し音が冬の空に勢いよくこだましはじめていた。


 のそのそと取り出して画面を見ると妹からだったので、また急なことに振り回されるのかと思い電話を取る。


「もしもし」

「あ……お姉! ……その、今ちょっといい?」

 

 妹にしては珍しくおどおどしていて、いつもの明るさが声にはなかった。


「いいけど……どうかしたの?」


 承諾して耳を傾けているけれど、なかなか話そうとはせず落ち着かせようと何度か深呼吸をしている。

何をそんなに躊躇うことがあるのだろうか、聴く側のこっちまで変に身構えていた。


「あのね……。さっき……お母さんが……倒れたの」

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