後悔と躊躇い 94日目(season2)
新しい職場に移ってから、数ヶ月が経った。
小さな町工場なので周りはほとんどが男性なので、多少なりと威圧感のようなものはあるけれど一人の職員としてなんとか働いている。
極端に厳しい人やなにかと癖のある人もいないから人間関係も良好で、性別に関係なく平等に接してくれる社風は一つの安定を感じさせていた。
そんな勤め先だけれど、女性が全くいないわけではない。
二個上の先輩で直属の上司にあたる三ヶ島 三咲さんは、私が入るまでは唯一の女性社員でもあった。
顔は凛々しく整っていて、目は鋭く体型もすらっとしているから作業着姿で彼らに混ざっていると男の人と一瞬間違えそうになる。
加えて、あまり笑ったりもしないので一見すれば怖そうな雰囲気がするのだが、何かやらかしても決して怒ったりはせず、いざという時は他部署と連携してあたっているので周囲からの信頼も厚い先輩だった。
それに、最近の先輩には良い出会いがあったので、表情には出さないが幸せの中にいる。
……もっとも、その後押しをしたのは私なのだが。
今日もお昼休みになると、自前のお弁当を広げて僅かな表情の変化で美味しそうに頬張っている。
それを眺めていると私の目に気付いたのかこちらと視線が重なり、気まずそうにそっぽを向いて続きを食べていた。
今まで誰かと付き合うことすら経験してこなかったのだろう、その挙動一つ一つに初々しさがあって見ていて面白い。
私があんなリアクションをしていたのは、どのぐらい前のことだろう。
そんな遠い記憶が、彼女を見る度に脳裏をよぎる。
そしてその度に、胸の奥が疼くような感覚に陥る。
あれからもう何年も経つというのに、未だに私の心は未練に囚われていた。
──あの時感じていた、小さな幸福の中に。
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