変化と日常 79日目(season2)
「──鈴音と、付き合うことになった」
三週間ほど前、久々に店に来た三咲が放った一言に、仕事の手が一瞬止まる。
それを伝えていた三咲はとても真剣で、けれど何処か満足感に溢れていた。
「…………そうなんだ、おめでとう」
「あんまり驚いてなさそうだね」
「なんとなく、予想してたから」
その報告に私は淡々と言葉を返しただけなのだが、三咲は「そっかぁ」と呟きながら笑顔をほころばせる。
今まで無愛想だった彼女が不思議と眩しくて、長い付き合いの中でも見たことのない表情が今までの過去をかき消し彼女に心を宿らせているようだった。
「……良かったわね」
「ありがとう」
二人が望んだ関係で無事結ばれたことにそう告げると、三咲は再び屈託のない笑顔をみせていた。
いつか、こうなってくれたらと願っていた姿に、ようやく近づいてくれている。
出会ったあの日から心の片隅で感じていた想いは高校を卒業してからも変わらず、ようやく自分らしい生き方を見つけてくれた彼女に、今は親友として慈愛の眼差しを向けながら静かに祝福を贈っていた。
──その合間で、ひっそりと生まれた新しい感情は私の心に芽をつける。
今の三咲には鈴音との時間が最優先になっていて、この日も報告をしてから十五分もしないうちに彼女の元へと帰っていた。
それは当然のことだから、私は相変わらずその背中に向かって手を振って送りだす。
……これから、三咲と会う時間も少なくなっていくんだろうな。
彼女の後ろ姿が遠ざかっていくほどに、芽生えた感情は心を覆いつくしていく。
すぐに変わると思っていなかった一番の場所が急になくなり、まるで世界から一人取り残されたかのようにやり場のない虚しさだけが胸の奥から込み上げていた。
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