あなたと私 76日目①
日が落ちてから数時間が経ち、空には星が輝き始める。
未だに繁華街の賑やかさが収まる様子はなく、街の人たちはまだまだ眠りにつきそうにもなかった。
その音を遠くで聞きながら、駅のホームで鈴音と一緒に帰りの電車が来るのを待つ。
お互いに気持ちを伝え、通じ合えた安心から周りに私たちしかいないとはいえ、人目を憚らずにずっと寄り添いあっていた。
服の上からでも分かる体温が心地良くて、この日を迎えるまでずっと緊張していたのもあって瞼がすぐに落ちてしまいそうになる。
しかし、それを見計らったかのように電車のアナウンスにまどろみはかき消されてしまい、あっという間に至福の時間に終わりが訪れていた。
「電車、着いたね」
引き戻された現実を噛み締めるように、私がポツリと呟く。
ここで二人の時間は終わり、後は帰るだけという事実に寂しさと物足りなさがあるけれど、明日もしなければいけないことがあるので重い腰を渋々持ち上げていた。
それに倣って鈴音も立ち上がり、電車の乗車口に一緒に向かおうとする。
しかし、彼女は何かを言いたそうにしてその場から重い足取りでついてきていた。
「——今日、そっちにお邪魔してもいい? ……もう少し、一緒にいたい」
乗り込もうとする寸前のところで、後ろにいる彼女がそう告げられる。
その声に顔だけを振れば、懇願するような眼差しを向けていた。
それは嬉しいけれど、明日も仕事があるのでこれ以上は支障が出るのではないかという懸念が浮かび、せめて明日にしようと理性が言い聞かせようとしてくる。
でも、やっとの思いで繋がれたのに二人の時間が呆気なく過ぎてしまうのは惜しくて、離れたくないという気持ちは私も同じだった。
「…………いいよ」
まだ、一緒にいたい。
彼女と気持ちを通じ合わせた瞬間から私の理性はほとんど機能を無くしていき、考える間もなくその言葉を口走らせている。
そして、本能のままに鈴音の誘いに応えていた。
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