あなたと私 75日目➂
「私、鈴音が告白してくれるずっと前から……あなたのことが好きだった」
緊張しすぎたせいなのか、一瞬幻聴が聞こえたのかと耳を疑ってしまう。
しかし、それを伝えた本人は真剣そのもので、それは私が三咲にした『好き』と同じ意味なのを指していた。
嘘、じゃない……?
ずっと前って、いつから?
こんな偶然って——こんな奇跡って本当にあるの?
彼女の言っていることを疑っているわけではないが、こんなことが起きるなんて予想だにしていなくて、喜んでいいのかどうするべきなのか頭の中がぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
「だから、あの時好きって言ってくれて、本当は嬉しかった」
その真っ直ぐな言葉に、今起きていることが現実なのだとしっかり認識させられてしまい、まるで火がついたかのように全身が熱くなっていく。
しかし、私の反応とは裏腹に、三咲の表情はとても苦いものだった。
「……けれど、ずっと心のなかった私が、今まで何者でもない不完全な自分が、前を向いて進み続ける鈴音の隣に本当にいていいのかずっと不安で、すぐに答えることが出来なかった」
その気持ちは、今まで独りだった三咲が私を通じて人と繋がることを知ったからこそ、感じているのかもしれない。
何処かで自分は劣っていると思っているから、いざ並んだ時にその差に苦しいものがあったのだろう。
三咲の過去を知っているからこうして想像することは出来ても、その痛みだけは彼女にしか分からないから、簡単に寄り添ってあげるのは難しく、安易に理解出来るものでもなかった。
ずっと助けてもらっていたのは私の方なのに、こんな時にただ聞いてあげることしか出来ないのが歯痒く、衝動的にその言葉を止めてしまいそうになる。
「——それでも」
伝えることに迷いもあったのか震えていた三咲の手だが、意を決するようにぴたりと止まる。
それから一息置いて、彼女は顔を上げてもう一度私を見つめていた。
「それでも、私はあなたの傍にいたい。あなたと、同じ道を生きたい。明日も、明後日も、その先も、またあなたに会って一緒に笑っていたいから」
言葉の節々に宿る意思に、胸を締め付けられていく。
三咲の想いが、肌にまで伝わってくる。
この気持ちを云うためだけに、どれだけ迷って考えてくれたのだろう。
どれだけ、私のことを想ってくれたのだろう。
私たちの抱える『好き』という気持ちに、本当の意味で応えなければいけないのは私の方だった。
「……私もだよ」
搾り出した声は掠れていて、三咲のように上手く喋れていない。
でも、そんなことに構ってなんかはいられずに、言葉を紡いでいく。
「私だって完璧じゃないし、たまに感情的になってしまうことだってある。きっと、三咲の方が先に進んでいるのかもしれない。……それでも、一緒にいたいよ」
次第に涙がこぼれ始めて、応えるのも辿々しくなってしまうけれど、三咲に応えたい一心で向き合い続けていく。
それは三咲に届いてくれたのか、気づけば彼女の胸の中に身体が収まっていた。
「……私たち、同じだったんだね」
囁くようなその一言に、昂りそうな私は収まりをみせて静かに包まれていく。
その温もりは、秋の夜空に微睡みに誘われるほどに心地の良いものだった。
誰もいない夜の交差点の前で、私たちはようやく一つの大きな繋がりを得られていた。
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