姉と妹 47日目

 暦もいよいよ週末に差し掛かろうとしていて、私たちの同居生活にも区切りが見え始めていた。

 周りでは一週間の仕事に解放された人たちが酒だ飲み会だと騒いでいる中、スマホに一件の通知が飛んでくる。


『今日は帰りが遅くなりそう』


 アプリに届いたメッセージは淡々としているけれど、その奥では少し寂しそうにしているのが目に浮かび、そんな顔を想像するだけで自然と笑みがこぼれていた。


『それなら、夕飯作って待ってるね』


 三咲にそう返信をしてから、久々に今日の献立を考えてみる。

 どのみち何処かで料理ぐらいはしようと思ってはいたし、味に関してはこだわりがないと昨晩一緒にご飯を食べた時に聞いていたので何を作ろうか今からアイディアが浮かんできて、歩幅も心なしか早くなっていた。

 その間にも、三咲から自分が作ると返事が来ていたけど、何かしたいと懇願すると少し時間をおいて納得をしたメッセージが返ってくる。

 本人からの許可も得たので、久々に腕が振るえそうで部屋に戻るのが楽しくなっていた。

 


 それにしても、明日は休日だから一日三咲と一緒ってことになるよね。

 せっかくだから、この前みたいに何処かへ出かけてみようかな。



 まだまだ続く共同生活に、私の期待は膨らんでいくばかりだった。



* * *



 部活や途中寄り道していたのもあったけれど、バスは無事に目的の駅に到着し軽快に車内から降り立つ。

 ここは何度来ても私の地元より人通りが多く、活気も比較にならないほどに賑わっていた。

 けれど、ここは姉の職場のある場所なのですぐに電車に飛び乗って目的の駅で降りてから半年ぶりに通る住宅街を抜けて、遠くに立つアパートを目指す。



 お姉ぇ、今何してるかな。



 久々に会う姉が、急に来たらどんな顔をするのか毎回楽しみにしながら見えてきたアパートからこぼれる部屋の光でいることを確認して階段を昇っていく。

 毎回大きなリアクションが返ってくることはないけれど、静かに迎えてくれる優しさが昔から変わることはなく、それが私を心地良くさせていた。

 目的の階まで進み、その一番突き当りの部屋の前で前に作った合鍵で開けて、扉に手をかける。

 そのまま勢いに任せて扉を開け放って元気に入っていった。


「お姉ぇ久し振り! 急だけど少しの間また泊めさせて!」


 要件を大声で伝えて、反応が来るのを待つ。



 …………なかなか返事が来ない。

 どうしたんだろう?



 すると、部屋の奥から見知らぬ女性がこっちにやって来る。


「…………あの、どちらさまでしょう?」


 目の前に現れた美人さんに息を呑み、部屋を間違えた焦りで身体が熱くなっていく。


「すみません! 間違えました!」


 慌てて扉を閉めてそこから走って離れて一度落ち着き、再度今の状況を整理してみる。

 


 遠くから姉の部屋を見る限り、番号は合っている。

 ということは、この半年の間に引っ越した?

でも前会った時にはそんなこと言ってなかったし、急な転勤が入るような仕事じゃないので会社都合で変わるなんてこともないはず。


じゃあ、何で姉の部屋に知らない女の人がいるの?



「……何してるの、一葉?」


 謎だらけの状況に大学入試問題以上に頭を抱えているところに、聞き慣れた声が響いてくる。

 

「あれ?! お姉ぇ?! 何でいるの?!」

「それはこっちが聞きたいよ。また泊まりに来たの?」


 呆れた声で応える態度から、姉の生活環境はどうやら変わってはいないらしい。


 じゃあ、あの人は一体?


「三咲、戻ってたんだ。それに、その子は?」


 そこへ、さっきの女性が何故か名前を呼びながらこっちへと駆け寄ってくる。

 さらに訳が分からず二人を交互に見比べながら、どうしてか照れくさそうにしている姉に説明を求める視線を送り続ける。



「……今、その人と同居してる」



 姉から出た衝撃発言に今日一番の声を響かせてしまい、ご近所さんに騒音被害を与えてしまっていた。

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