姉と妹 45日目
西日の差し込む車内で身体を揺られながら、今日も仕事の疲労を抱えて帰路に着く。
今週に入って起きたトラブルもとりあえずの解決策は見つかり、その対処に追われていた反動で仕事中に力が抜けてぼんやりとすることが何度かあった。
急な事態だったとはいえ次は気を付けようと気を引き締め直して、改めて外の景色に目を向ける。
しばらくは、二人で生活を送るんだよね……。
学生時代にあった臨海学校や修学旅行みたいにただ同じ部屋にいるのとは違って、その中で一日を過ごすのだから相手の領域には十分気を付けないといけない。それに、家事や料理だってしてもらってばかりだと相手に悪いから、何処かでちゃんと私も手伝って支えてあげないといけない。
ただでさえ、この間の時も夜遅くまで付き合ってくれたのだから、このまま何でもしてもらってばかりだと私の気持ちが収まりそうになかった。
三咲のために、何をしようかと考えていたところで降りる駅のアナウンスが響きだす。
普段使う駅と場所が違うので、読み上げる名前や駅の表札を何度も確認してから改札口をくぐって外に出ていた。
朝来るときに見覚えのあるものが沢山見つけられたことに安心してから、教えられた道順を辿っていく。
私が住んでいたアパートより住宅地が近いため、少し歩けば下校途中の生徒や買い物帰りの主婦の方とすぐにすれ違い、目が合う度に会釈をして前に進んでいた。
そこからしばらく行けば人影が少なくなるのと同時に田んぼが現れるようになり、それを二つ三つ超えた先に住宅街を避けるように建つ三咲のアパートが見えてきていた。
階段を上って突き当りの部屋の前に来てから、渡された合鍵でドアノブを捻って中へと入る。
「ただいま」
「おかえり」
いつも一人の寂しさを紛らわすためにしていた挨拶を口にしてしまいはっとするが、その言葉に返事がきたことに一瞬戸惑って目を丸くしてしまう。
「もうすぐ夕飯出来るから、少し待ってて」
玄関で迎えてくれる三咲はシャツにハーフパンツとラフな格好の上にエプロンをしていて、いつものきりっとした印象は遠のいて今は帰り際にすれ違った主婦のように映っていた。
そっか。今は、こうして出迎えてくれる人がいるんだ。
——これはこれで、何だか良いなぁ。
「……どうしたの?」
帰ってきても部屋に上がらない私を不審に思って、顔を覗いてくる。
「今の三咲、何だか奥さんみたいだなって思っただけ」
それだけ答えると、靴を脱いで中へと入っていく。
すれ違いざまに反応を見てみたけれど、案の定私の言葉にたじろいで耳を赤くしていた。
「…………変なこと言わないでよ」
後ろで小さく聞こえる抗議の声にくすっと笑って、貸してくれた部屋で着替えを始める。
もし、これからの未来でこんな生活が送れるのだとしたら、きっと楽しい日々になるのだろう。
出来ることなら、その相手が私のことをよく知ろうとしてくれて——好きでいてくれるような人だったら言うことなんてないかな。
流石にそれは我儘すぎるし、そんな都合のいい人なんているわけがないので、隣の部屋で私が来るのを待っている友達へ元気な姿をみせてあげることにした。
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