過去と現在 31日目
太陽の明かりが消えてから数時間が経つけれど、残された熱は本来涼しくなる夜の天候に暑さを纏わせていた。
「ただいまぁ……」
汗が滲むような星空の下を歩き、誰もいない部屋に声をかけて入る。返事がくることはないと分かっていても、長年染み付いた習性が寂しさを紛らわせようとしていた。
普段なら中に入ってすぐに部屋着に着替えて夕飯や家事をのんびり進めるのだけれど、今日は何も考えずにベッドに倒れるように横たわってしまう。
連日続く別れの夢は相変わらず私から離れようとはしてくれず、今日はミスをすることなく終わったけれど自分の行動に気を付けるだけで気力をほとんど使ってしまい、その疲れが今になって一気に押し寄せていた。
「疲れたなぁ、今日」
何かをする力もなく、虚ろな瞳で部屋を見回す。
入社して最初の一か月ほどは似たような状況に陥っていたけれど、それでも今みたいに何もする気が起きないほどではなかった。
この原因であるあの悪夢を何故見るようになったのか、それは今のところはっきりとしたことは分かっていない。
しかし、今のままだとまた迷惑をかけるかもしれないので、ベッドの上で何度か寝返りを打ちながら少しだけ考えを巡らせてみることにいた。
家を出てからの数年間は、何度か壁に当たることはあっても今は大きな障害はなく、会社でもアパートでも周囲の人たちとは楽しく会話も出来て愛想よく振舞えている。
そして、今は新しく出来た友達とも大きな問題もなく仲良くしている。
少なくとも、私の周囲で人間関係に困ることは起きてはいなかった。
……それなのに、どうして今更になってこんなことに囚われなきゃいけないんだろう。
周りの人たちは、何も悪い事なんてしていないのに。
私は彼女たちと、仲良くしていたいだけなのに……。
考えがマイナスな方向に進み始めてしまい、咄嗟に起き上がってその思考を振り落とし、危うく気分が沈みそうになった自分の両頬を叩いてベッドから離れていく。
くよくよしてちゃダメだ、私。
自身に喝を入れたおかげもあって、ぼんやりとしていた頭が少しシャキッとして部屋の中をはっきりと映しだしていた。
このままもう一度考えてみたとしても、このままでは大した解決策も分からずまた悪い方向に思考が進んでしまいそうになる。
何も進展がなかったことが歯がゆいけれど、今は無理に進めても意味がない。
それに、下手に考えてまた野中さんたちに心配させるわけにもいかないから、今日はここまでにしよう。
自分たちだけの会議の中でそう決まれば、一旦この件を保留にして部屋着へと着替えいつものルーティンへと戻りだしていく。
今は少しでもあの夢のことを忘れることに専念しようと、夕飯の献立に頭を切り替えながら、調理道具を握りしめていた。
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