心と贈り物 25日目

 夜空に高く昇る月は煌々と輝きを放ちながら、明かりがほとんど消えた世界を静かに照らしている。

 その光の一部は私の部屋にも差し込み、今日一日の——正確には日付は変わっているので昨日の余韻に浸っていた。



* * *



 水族館の観覧コースを一周した後は、近い時間でやっていたイルカショーで少し濡れながらそのパフォーマンスに感動したり、館内の飲食店で一緒に食べたお昼ご飯に舌鼓を打ったりして新しい施設を十分に楽しんでいた。

 しかし、楽しいことが続けば時間はあっという間に過ぎてしまい、気づいた時には空はオレンジ色に彩られていて閉館時間も徐々に近づいていた。


「今日はありがとう、誘ってくれて。楽しかった」


 予想以上に楽しめた水族館で溜まった疲れを、身体を伸ばして解消しているところに三咲から感謝を伝えられる。


「それなら良かった」


 ここに来て最初の時間は私ばかりが楽しんでいて、三咲は一歩引いたような感じでみていたのが気になっていたけど、聞いてみたらそんなことないと言ってくれたしその後は所々でリアクションも多少はあったので、その言葉に嘘はないのだろう。


「鈴音」


 結果的に全てが円満に終わってくれたことに満足して、出口に向けて歩き出そうとしたところで、三咲が私を呼ぶ。


「次も、また一緒に何処かへ行こう」


 今度はどうしたのかと鈴音の言葉を待っていると、彼女は照れくさそうに頬を掻きながら次も私を誘ってくれていた。


「もちろん」


 悩むまでもなく、二つ返事で承諾すると三咲の顔がどんどん晴れやかになっていく。

 三咲の人の反応を窺うような表情を見るのは初めてで少し意外だったけど、少しずつ周りに興味を持ち始めてくれたと思うと今の姿も少し可愛くみえていた。



* * *



 そんなやり取りを一人思い返しながら、スマホを持ち上げて今日つけた赤いストラップを眺める。


 帰り際に記念に何か買っていこうという話が出てきて、それならお揃いのものを一つ付けようと提案した結果、デフォルメされたメンダコの描かれているストラップを赤と青でそれぞれつけることになった。


 月明りで浮かぶメンダコを見ていると、三咲のあの顔が浮かんできてしまいふふっと小さく笑う。

 

「また二人で出かけたいな」


 照らされているメンダコに話しかけながら、もう少しだけ今日の思い出に浸っていく。



 今度はお礼とかそういったものはなしで、ただの友達同士で気兼ねせずに行きたいな。

 


 次第に月の周りには星が幾つか輝きはじめ、その光はまだまだ弱まりそうになかった。

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