心と贈り物 19日目
午前中の仕事にひと段落着いて皆がお昼ご飯を取っている中、お昼休憩のチャイムが鳴るのと共に私は課長のいるデスクに向かっていく。
「お食事中すみません。これ、よろしくお願いします」
お弁当を食べていた彼女は突然の来訪にきょとんとして、手渡した有給届に目を丸くしていた。
「それは別に構わないわよ。むしろ、そろそろ取ってもらおうと考えていたから丁度良かったわ。……それにしても、何だか珍しいわね」
課長の言葉に、今度は私が首を傾げる。
「いつも仕事に熱心すぎて自分から休むなんて言わなかったから、ちょっと気にしてたのよ」
「そんなつもりは、なかったんですけどね……」
口では心配されないように告げるけれど、言われてみて思い当たる節が幾つもあるので目を見てまでは答えられずにいた。
「分かったわ。ゆっくり休んでらっしゃい」
「ありがとうございます」
すんなりと受け取ってくれた課長に一礼して自分の席に戻り、さっそくこのことを三咲に報告する。
昨日会って話した時に彼女の方も問題なく受け入れてくれたので、全てが順調に進んでくれているのが有難い限りだった。
「スマホ、楽しそうに見てるね」
メッセージを送って、返事が来るのを心待ちにしながら私もお弁当を開こうとしたところで、後ろから野中さんの声をかけられる。
ふり返って挨拶をしようとするが、仕事の疲れなのかいつもより元気がなさそうな顔をしていたので、その言葉が喉に詰まってしまっていた。
「もしかして……恋人?」
冗談のつもりで聞いているのだろうけれど、声に覇気がないので本気で心配しているような雰囲気になってしまい、何故だか気まずくなっていく。
「最近知り会った友達ですよ。今度その子と一緒に水族館に行くんです」
恨めしそうにもしていたので全ての事情を話すと、顔は急に晴れやかになり何かに安心して胸を撫で下ろしていた。
「そっか。それなら……まぁ気を付けて行ってきてね」
それだけ言うと、野中さんは安堵とも不安とも取れない複雑な表情をしたまま自分の席へと帰っていく。ありがとうございますとその背中に伝えるけど、声が返ってくることはなかった。
もしかして、野中さんって恋人とか恋愛話とかを気にしているのかな。
今までそんな素振りすらしたことがなかったので、意外な一面にちょっと驚いてしまう。
そんな彼女の背中を眺めていると、三咲から『こっちも有給取れたよ』と早速メッセージが返ってくる。
その返信に笑みがこぼれて、準備することはまだたくさんあるけれど久々の友達とのお出かけに、今から楽しみが胸を覆いつくしていた。
こうして、私と三咲は来週の水曜日に一緒に水族館に行くことが決まった。
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